人工知能と3Dプリンターで作るスーパーカー ジンガー21C 産業へ衝撃を与える新技術

公開 : 2024.02.08 19:05

人工知能による設計 3Dプリントでの成形

デザイナーやエンジニアは、短期間でのアップデートを望んでいるかもしれない。だが、コストの回収を考えると難しい。これらを解決するのが、ダイバージェント社の新技術。「3本の柱」と彼らが表現する、3つのアプローチで成り立っている。

1本目の柱が、独自にコーディングされた、人工知能を活用した設計プログラム。最小限の材料を利用し、最軽量で高剛性・高耐久な設計を、迅速に導くという。ルーカスは、このシステムが自動車産業を一変させる可能性があると信じている。

ジンガー21C(北米仕様)
ジンガー21C(北米仕様)

「サスペンションのアームからリアのサブフレームに至るまで、開発を進める中で、要件を下回った場合は再設計が求められます。恐らく、数回の試作が実行されるでしょうが、1万回も試すことはありません」

「でもソフトウエアなら、1万回の試行も可能です。1gの材料も無駄になっていない、全体的な最適解へ収束されます。要件をすべて満たしつつ、これ以上変更できない、ベストな設計が生まれるのです」

ただし、その極限的に理想的な部品は、従来のプレスや機械加工では量産が難しい。そこで2本目の柱で、同社の新しい技術の核心、3Dプリント・システムが登場する。成形ステージを取り囲むように並ぶ、22本のロボットアームが連携して動くという。

ルーカス氏によれば、基本的には3Dプリンターではあるものの、リサイクル可能なアルミニウムを用いた、特別な合金を積層していくことが特長。この合金も、同社が650件も保有する特許の1つだそうだ。

製品に依存しない製造システム

そのアルミ合金は溶接可能で、従来的な方法で別の部品と固定できる。だがダイバージェント社では、特別な接着剤を開発した。紫外線を当てると、2秒で硬化するらしい。

「これらを活用すれば、年間数100万単位で量産可能です。硬化に10秒や40秒も要していては、機能しません」

ダイバージェント社が開発した、3Dプリントシステムのロボットアーム
ダイバージェント社が開発した、3Dプリントシステムのロボットアーム

3つ目の技術が、組み立てプロセス。「仮に40点の3Dプリント部品があったとして、それらを結合し、利点を拡張するには何がベターでしょう。従来的な組立工程で良いのでしょうか?」

「そこで製品に依存しない、製造システムを構築しました。同じロボットアームで、フェラーリのフレームでも、フォードのフレームでも、完成させることを可能にしたのです」

これらの実用化で、ダイバージェント社は最初のクライアントと提携。ビジネス拡大に成功した。「世界最大の製造プラットフォーム」という構想へ、一歩近づいた。

クライアントは、ソフトウェアと3Dプリントシステムを活用。費用や環境負荷の削減、設計の加速化を叶える。その結果、デザイン主導の企業へ進化が可能になるという。

3Dプリント部品を仕上げるには、数週間から1年半ほどを要する。だが、プロトタイプが不要になるため、最初から望み通りの部品が完成する。部品独自の製造設備は存在しないため、設計変更の自由度も増すことになる。

同社は、最も柔軟で高効率な製造パートナーになる可能性を秘めていると、ルーカスは主張する。「経営面で、設計リスクを大幅に軽減します。100%柔軟な、フォクスコン社やマグナ社のようなものですね」

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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