【クルマだけではない水素社会を広げるために】ホンダCR-V e:FCEVから読み解くホンダの未来
公開 : 2024.11.18 07:05
社会のカーボンニュートラル化を語るうえで頻々に話題にのぼる水素エネルギー。『水素を燃料にする』ことと『水素エンジン』の違いや、今後の課題など、FCEVについて、ホンダの研究開発者である菊池剛氏にうかがいました。
「究極のクリーンエネルギー」と呼ばれている水素
2024年7月、ホンダは新型燃料電池車『CR-V e:FCEV(シーアールブイ イーエフシーイーブイ)』を発売した。ちょっと読みにくい車名だが、ミドルクラスSUVのCR-VをベースにしたFCEV(燃料電池電気自動車)で、しかも日本の自動車メーカーとしては初めて、外部から充電可能なプラグイン機能を持つFCEVだ。
つまり、PHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)と、FCEVのいいとこ取りをしたような、利便性の高いクルマなのだが、そもそも「燃料電池って何?」、「水素を燃料にするって、水素エンジンとはどう違うの?」、「水素じゃなくて、ただのBEV(バッテリー電気自動車)じゃダメなの?」といった、さまざまな疑問が生じてくる。
そんな疑問に対して、CR-V e:FCEVのパワーユニット研究開発責任者の菊地剛氏に伺った話を基に解説していこう。
カーボンニュートラル社会の実現に向け、各自動車メーカーはさまざまな研究・開発に取り組み、多様なエネルギーを選択肢としている。その中でも『究極のクリーンエネルギー』と呼ばれているのが、水素=H2だ。
水素はそのものを燃焼させることでエネルギーを生み出すこともできるし、CR-V e:FCEVのように燃料電池システムによって発電することもできる。しかも、水素は使用時にCO2(二酸化炭素)を排出することはなく、風力・太陽光などの再生可能エネルギーを活用すると、製造工程においてもCO2の排出をおさえることができる。
水素エンジンと燃料電池の違いは?
まず、水素エンジンとはガソリンや軽油の代わりに水素を燃料とするエンジン(内燃機関)だ。炭素を含まない水素ガスを燃焼させるから、燃料由来のCO2は発生しない。大気中の窒素と反応して燃焼時にはNOx(窒素酸化物)が発生するが、ガソリンエンジンよりは少ない。
BMWが2006年に限定発売した『ハイドロジェン7』、ほぼ同時期にマツダが発表した水素ロータリーエンジンなどがあるが、ガソリンエンジンよりは出力が低く、航続距離も短かった。
現在、水素エンジンに積極的なのはトヨタだ。水素エンジン搭載車の市販を目指しており、スーパー耐久などのモータースポーツに参戦して開発を進めている。現在では液体水素を燃料にハイブリッドシステムを組み合わせたスポーツプロトタイプのレーシングカーも発表しているが、市販化への道は険しい。
それゆえ、トヨタもFCEVのミライやソラ(日野のバス)、フォークリフトなどを発売し、水素エンジンと並行して研究・開発に取り組んでいるようだ。
ホンダは、水素をエンジンではなく燃料電池のエネルギーとして開発している。それは、クルマだけではない水素社会を広げるため。クルマ以外のさまざまなモビリティや定置型の発電システムとしても燃料電池は最適だとホンダは考えている。
燃料電池とは、燃料の水素と大気中の酸素を化学反応させて発電するシステムだ。そのシステムについて詳しく解説するのは、かなりの理系知識を必要とするためここでは省略する。
こちらも20世紀末ごろからメルセデス・ベンツやトヨタなど多くのメーカーが開発を進め、ホンダも1998年にプロトタイプを発表した。現在の日本では、トヨタ・ミライとクラウン、ヒョンデNEXO、そして今回のCR-V e:FCEV(リースのみ)が発売されている。
FCEVは走行時には水(H2O)以外は発生しない、ZEV(ゼロエミッションビークル)だ。しかも、同じ燃料を用いる水素エンジン車より効率は高い。モーターで駆動するため低速域からトルクフルで加速力は強く、しかもエンジン音などはないから極めて静かに走ることができる。
同じモーターで駆動するBEVに対して、燃料補給はエンジン車並みの充填時間で済むから、BEVのように充電のために時間を費やされることはない。また、航続距離も長い。次世代エネルギー自動車の主役は、FCEVになるのではと思う人も多かった。