「デジタルデトックス」な楽しさ フォルクスワーゲン・ゴルフ Mk1へ試乗 50周年を祝う

公開 : 2024.12.30 19:05  更新 : 2024.12.31 16:59

1974年に発売されたゴルフ 2024年で誕生50周年 馬力やトラクションが限られるクルマの楽しさ デジタルデトックスに浸れる 当初のレシピを守り続けた強み 英編集部がMk1を再確認

馬力やトラクションが限られるクルマの楽しさ

フォルクスワーゲン・ゴルフが愛車だ、という読者は多いはず。筆者も、以前はその1人だった。自分にとって最初のゴルフと出会ったのは、2012年。走行距離の短くない3代目で、車検が残っていて、300ポンドを支払った。

それは、ゴルフを徹底的に走らせるという、AUTOCARの企画の一環だった。サーキットの走行会をどれだけ安価に楽しめるか、同僚と競った。結局100周以上も周回させ、廃車になった。かなり突飛な、オーナー体験といえた。

フォルクスワーゲン・ゴルフ GL 1.5(Mk1/1983年式/英国仕様)
フォルクスワーゲン・ゴルフ GL 1.5(Mk1/1983年式/英国仕様)

ゴルフの3代目は、歴代でも評価があまり高くない。それでも、ドアはズンと頼もしく閉まり、普通のファミリーカーなら受けることはない、高負荷にも最後まで耐え続けた。

転じて、今日の筆者が運転しているのは初代。1983年式のMk1 ゴルフ GL 1.5で、ブラックの塗装には艶がある。自宅からグレートブリテン島南部のソールズベリーへ向かう途中、すれ違うドライバーにサムアップされた。笑顔で見つめる歩行者も多い。

現代のクルマは、性能が高すぎる。馬力やトラクションが限定的なクルマの楽しさを、しばしば同僚と共有する。ゴルフ GL 1.5の最高出力は76ps。タイヤは13インチで、155/80。低パワー・低トラクションを絵に書いたようなスペックだ。

パワーウエイトレシオとグリップとのバランスが理想的なら、何でもないような前輪駆動のハッチバックでも、飾らない運転の喜びを味わえる。ケーターハム・セブンやトヨタGR86である必要はない。

デジタルデトックスに浸れるMk1

GTIではないから、サスペンションはノーマル。トランスミッションは4速マニュアル。つい、感触が曖昧なシフトレバーを倒し、存在しない5速を探してしまう。

4速で100km/hに迫ると、エンジンは酷使状態にあるとノイズで理解できる。当時のフォルクスワーゲンは、燃費を改善するため長めのギア比を採用したのだけれど。

フォルクスワーゲン・ゴルフ GL 1.5(Mk1/1983年式/英国仕様)
フォルクスワーゲン・ゴルフ GL 1.5(Mk1/1983年式/英国仕様)

このMk1は同社のヘリテイジ部門が管理する1台で、状態は良い。5000rpmで発生する最高出力を何度か確かめる。レッドラインまで滑らかだ。

カーブの先へ、小気味よく反応するフロントノーズを向ける。タッチモニターや電子制御技術から開放された世界は、気分が良い。

ステアリングホイールの中央には、VWのロゴでなく、ドイツ・ヴォルフスブルク工場のエンブレム。メーターパネルは、走行速度とエンジンの回転数、水温を見やすく教えてくれる。デジタルデトックスに浸れるクルマだ。

このMk1は後期型。1974年4月の発売時から、多くのアップグレードを受けている。GLはハイグレードでもあった。それでも、ゴルフの製造品質や技術力の高さは、当初から評価されていた。

1983年式が生産される頃までに、初代ゴルフは600万台以上が売れた。伝説といえる記録を、1世代で築いた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ヴィッキー・パロット

    Vicky Parrott

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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