クルマ漬けの毎日から

2014.12.24

締めくくりの乾杯は皆様に

A year in cars

 
最後に慌ただしかった2014年を振り返ってみたい。
進歩は自動車業界にとって当然の条件だ。前進しなければ務めを果たすことができない。ただ、自動車業界がどこに向かって進んでいくのかはとても興味深い。2014年はふたつの大きな前進が目にとまった。ひとつはEVの進歩で、もうひとつは経営刷新が必須だったいくつかのメーカーで新しいトップが誕生したことだ。
最近の動向
EVがクルマ社会全体のなかで一定の役割を果たしはじめるという予測が現実になりつつある。英国で販売されたEVのモデル数は、2013年の5モデルから11モデルに増加した。ルノーはすでに英国で累計2000台のEVを販売し、今後の見通しはさらに明るいと予測している。また、BMW i3は現在、英国の多数の消費者から、もっとも手に入れたいBMWとして支持されている。そしてi8は、BMWのほかの洗練されたモデルと同じように運転が楽しく快適だとEV懐疑論者に証明してみせた。
新たな経営トップ
ロータスとアストン・マーティンのトップ不在の危機は解決した。ロータスのトップにはPSAプジョー・シトロエンで以前トップを務めていたジャン-マルク・ゲールが就任し、じつに当を得た説得力のあるモデル/プロダクション計画を実施しようとしている。そしてアストンのCEOには、日産で副社長を務めていたアンディ・パーマーが就任した。彼が着任して早々、まったく新しいボンド・カーとしてDB10が発表されている。

 

 
所用があり、長期テスト車で走行距離2.4万kmのマツダ3(アクセラ)を250km走らせた。すぐに感じたのは低速時におけるコントロールのしやすさだったのだが、それは理想的な配置のペダルによるところが大きい。アクセルペダルの重さとストロークはまさに理想的だし、クラッチとブレーキペダルが効きはじめるポイントもまさに適切だった。左ハンドルの国で造られたクルマのペダルレイアウトが右ハンドル仕様でこれほどしっくりくることはほとんどない。メーカー側がなんといおうと、フランスとドイツのメーカーが設計したクルマは間違いなく左ハンドルが最優先なのだから。けれどマツダ3は、ほかの日本メーカーのクルマも同様だが、右ハンドルの日本市場をきちんと考えて設計されている。乗り比べればきっと違いを感じるはずだ。

 

 
夜のフライトでLAに到着した私は、明日からのプレスデーを待たずしてこっそりとLAショーの会場に忍び込んでみることにした。詳しく知りたくてたまらなかった新型マツダMX-5を見るためだ。ところがマツダのブースに到着してみると、MX-5の前にはすでに先客がふたりもいた。そのうちのひとりは運転席に座っており、すぐに席を譲ってくれそうな雰囲気ではない。マツダにはよい徴候だろう。そして、歴代MX-5はどれもそうだったように、新型もコンパクトでシンプル、そして軽快なライトウェイトスポーツであり続けているとわかったのは、非常に喜ばしいニュースだった。全体は進化しているが、MX-5というモデルが持つ本質的なキャラクターは保たれている。すでにこの新型に試乗した人たちによれば、素晴らしい走りだという。試乗できる日が待ち遠しい。

 
LAショーでは燃料電池車(FCV)が大いに注目を集めた。どのメーカーも開発プログラムの最終章に到達しており、適切なインフラさえできればすぐに販売を開始できる状態にあるようだ。ホンダ、トヨタ(BMWと共同開発)、ヒュンダイ、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、アウディの各社が「水素自動車の製造は可能だが、あとは水素ステーションだ」と口を揃えていた。
FCV仕様のアウディA7に試乗して街の中心部にある宿泊していたホテルの周辺を走らせたあと、ドイツ人エンジニアのゾーレン・シュトッベと話したのだが、とても聡明で明快な人物だった。その彼から聞いたなかでもとくに重要な話は、水素の貯蔵についてだ。水素はタンクに長時間保持できないだろうというよく耳にする憶測は、まったくナンセンスだというのである。
シュトッペによれば、水素を充填した缶とガソリンを満タンにした缶を放置し、2年後に調べたら、ガソリンよりもH₂のほうがたくさん残っていたという。イーロン・マスクは「水素は未来の燃料で、この先もずっと未来の燃料でしかない」と述べたが、どやらこの考え方が絶対に正しいとはいえなくなってきているようだ。とはいえ、水素を確実かつ経済的に供給できるようになるには、まだかなりの難関が待ちかまえているのは変わりないのだが。

 
この数日間、おそらく世界最高と思われる一台に乗っている。驚かれるかもしれないが、フォルクスワーゲン・ゴルフである。路上でもっとも頻繁に見かけるクルマのひとつだが、本誌英国版が87年前にロードテストを開始して以来、数々のロードテスターが評価してきたように、どこにでも見かけるクルマが優秀ではないとは決していいきれない。なかでも私が気に入ったのはGTDだ。GTDはスポーティなシャシーときわめて燃費に優れたディーゼルエンジン(CO₂排出量は109g/km)を備えている。184ps/38.7kgmを発生するこのエンジンは、6段DSGを介してゆとりある走りを生み出す。
本誌英国版で以前、ハンドリングはフォード・フォーカスほどシャープではないと評価したのは憶えている。だが、運転すればするほど、GTDの隠れた美点がわかってくる。たとえばタッチスクリーン操作のオーディオ/ナビ/エアコンは、ベントレーよりも優秀だ。それに電動ミラーのアジャスターは、ロールス・ロイスよりも間違いなく扱いやすい。0-100km/h加速は7.5秒と中レベルながら、信号待ちからの発進では、親の敵を見つけたかのようにアクセルを踏みつける営業バンを余裕で打ち負かす。そして私がとくに評価したいのは、郊外の道でコーナーを抜けたあと、ステアリングを握る指を緩めると完璧な速さで確実にセンターに戻るステアリングだ。こういった長所に触れるたびに、総合的な評価は自然と高くなる。

 
ロンドンで偽装したホンダ・シビック・タイプR(英国では2015年夏の発売)を見かけた。私は徒歩だったが、そのシビックはとてもゆっくり走っていたので簡単に追いつくことができ、何枚も写真を撮ることができた。
編集部に戻ってから、あのシビックはいったい何をしていたのかが話題になった。私はストップ・スタート機構のテスト中だろうかと思ったのだが、同僚たちは皆、プロモーションツアーでもしていたのだろうと主張した。そういえば知り合いが、発表前の新型車に乗って人がたくさん集まる場所にあちこち出掛ける仕事を3週間ほど受けたことがあると話していた。彼はその新型車を、人気のレストランやパブ、バーの前に駐車していたという。確かに同僚たちの推測は道理にかなっている。あの偽装は、むしろシビックを人混みのなかで逆に目立たせていたし、プロポーションはどこも隠していなかった。

 
一年の終わりに、読者諸氏に心よりお礼を申しあげたい。皆様からの厚いご支援のおかげで本誌とウェブサイトは活気にあふれ、私たち編集部は幸運にも最高にやりがいのある仕事をさせていただいている。今年も一年の締めくくりの乾杯は、読者の皆様に捧げたく思う。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)


 
 

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