クルマ漬けの毎日から

2015.01.22

その個性はクラスレス

There is no class

 
アリエルからノマドと名付けられたオフロードモデルが登場するという衝撃的なニュースが耳に入った。これについては以前から噂はあった。本誌もアリエルが何か驚くべき計画を進めていることは知っていたが、詳細を手に入れるのはむずかしかった。ひとつには、アリエル創始者にしてデザイナーでもあるサイモン・ソーンダーズのスタジオはサマセットの本社内にあり、厳重に守られているからだ。ここにはおそらく誰ひとり、部外者は招かれていない。このところ彼らが多忙を極め、外部との接触がなかったのも詳細が漏れなかった理由のひとつだろう。アトムの需要に対応するなかバイクの“エース”をローンチし、現在、大ヒットしている。さらにレーシングシリーズを推進しながらアトムのセールスとサービスを継続し、別の新型車まで造るなど、あまりにも負荷が高すぎる。

しかし、家族経営の強みで生産性を高め、アリエルはそれをやり遂げた。サイモンが会社の舵取りに心血を注ぎつつブランドの高い創造性を維持し続ける一方で、長男のトムはアトムの販売とデリバリーをこれまでどおり順調に行った。そして次男のヘンリーは、アイディアから生産にいたるまで、ノマドのプロジェクトに熱心に取り組んだ。なんとそのノマドは、もう受注がはじまっている。

 

 
昨年、最後にとても興味深いクルマに試乗できた。シトロエンC5 のワゴンである。このクルマには、油圧サスペンションのハイドラクティブが装備されている。簡単にいうと、各輪に1個ずつ配備されたスフェア(中空の球)内で圧縮された窒素ガスが、金属のばねに代わってスプリングの役割を果たすものだ。また、フロントとリヤの左右間にはそれぞれ別のスフィア(前1/後2個)が配備され、オイルラインで各輪のスフェアとつながっており、それらの働きでクルマを水平に保つ仕組みである。

ハイドラクティブはたいていの場合、きわめてうまく機能する。C5は決してピッチングを起こさないし、舗装がよくない路面での乗り心地は驚くほどなめらかで快適だ。というのもこのシステムでは、スプリングレートがとても低いからだ。姿勢とロールは別の手段で制御されている。弱点は、ダンパーとブッシュの制御が甘く、細かな振動を感じることだ。それに、ときどきごつんと強い衝撃も感じる。この衝撃は、たとえばアーチ状の橋の頂上などで、4輪がほぼ同時に接地荷重を失うと起きる。

けれど、ハイドラクティブが気に入っている人たちからすれば、こういった弱点など問題にはならない。レクサスやフェラーリにもないものを、このシステムがもたらしていることのほうが重要なのだ。C5を同クラスの他車と比較するのはやめたほうがいい。そもそもクラスなど存在しない。インスピレーションを感じながらイングランド南海岸でC5を試乗した日の夜、油圧サスを装備した最近のシトロエンのなかでもっともラグジュアリーなC6を中古車情報サイトで探したみたら、程度極上の個体が5000ポンド(約90万円)だった。あぁ、誘惑に駆られる。

 
新しい年がはじまった。2015年は素晴らしい年になりそうだ。まず、待望の新型ハイブリッドスーパーカー、ホンダNSXがデトロイトで登場した。クルマ社会の今後に大きな影響力を持つシボレー・ボルトや、噂の新しいフォードGTも、登場したなら検証したい。一方、英国ブランドで大きな勝利を収めるのは、間違いなくジャガーだろう。春に販売が開始されるXEは、ジャガーにとって過去数十年で最大のローンチになるに違いない。

ジャガーの新年は、ベテランテストドライバーのノーマン・デュイスに大英帝国四等勲士(OBE)が授与されたというニュースではじまった。彼はサー・ウィリアム・ライオンズの黄金期と強いつながりを持つ人物だ。ライオンズの時代には、Dタイプ、Eタイプ、そして多方面に影響をおよぼしたXJサルーンといったイコンが生み出された。ジャガーが現代性と実際性という点で、プレミアムセダン市場においてドイツ勢にどのように挑むのか、きわめて興味深い。さらに、新設されたスペシャル・オペレーション部門を介し、ほかに類を見ない“ヘリテージ”を彼らがどのように提示していくのかも興味深く、目が離せない。XJ-SやXJ-S V12を数年前に100万円足らずの出費で手に入れたオーナーが、大金を得る日がやってくるのかもしれない(状態のよい個体であれば)。

 
クリスマス休暇明けに大量の未読メールをチェックしていて、読者のデビッド・ウェバーから届けられた嬉しいメッセージを見つけた。光栄なことにこのコラムが、昨年の彼のカーライフを充実させる後押しになったというのである。ちょうど一年前の3月号で、2014年に実行したい事柄をこのコラムに書いたのをご記憶だろうか。そのなかで私は、とんでもないクルマを買う、休暇をとってクルマで旅に出る、モータースポーツライセンスを取得する、レースに出場する、といったことを書いたのだが、それを見たウェバーは自分にも当てはまるものを実行に移した。まず、過去20年に1000人の新人ドライバーが挑戦しているケータハム・アカデミー・チャンピオンシップに参加した。初戦の結果は思わしくなかったが、彼は7回参戦して6 回の優勝を果たした。それに、フェラーリも買ったそうだ。ウェバーはこう話す。「貯金はすべて使い果たしてしまいましたが、それ以上の経験が得られました」

 
近隣のメルセデス・ベンツ販売店のスタッフが、まもなく新型スマートが入荷するという嬉しい情報をこっそり教えてくれた。最新のフォーツーに試乗できる日が待ち遠しい。英国で正式発売される1年半前の1999年に並行輸入業者からグレーのスマートを衝動買いして以来、私はずっとこのクルマに好感を持っている。そのスマートは、かみさんが定期的に長距離運転をする必要が生じるまでの3 年間、わが家のファミリーカーとして活躍した。それ以来、夫婦揃ってスマートが大好きだ。この新型ではきっと長年のふたつの課題(アンダーステアと反応の悪いギヤボックス)が解決されているに違いない。

 

 
今、私の頭の中は“みなしごたち”のことでいっぱいだ。“みなしごたち”とは、優良な中古車にもかかわらず、店先であぶれているクルマのことだ。その結果、“みなしごたち”は魅力的な安値で手に入る。賢い人ならこういうクルマを選ぶはずだ。いつも市場動向に注目している本誌英国版編集部のルイス・キングストンの助けを借りて、魅力的な20台をリストアップしてみた。

●スーパーミニ: シトロエンC2 、フィアット・プント
●スモール: シボレー・クルーズ
●ラージ: シトロエンC6、プジョー508、アルファ・ロメオ159、MG ZT
●パフォーマンス: ジャガーSタイプR
●ラグジュアリー: レクサスLS430/460、BMW7リーズ
●ワゴン: ジャガーXタイプ、ヴォグゾール・オメガ
●クロスオーバー: スバル・アウトバック
●SUV: シボレー・キャプティバ、ジープ・グランドチェロキー
●クーペ: マツダRX-8、アルファ・ブレラ、サーブのコンバーティブル、ルノー・ラグナ・クーペ

機会さえあれば、評判や“プレミアム”といったものに大金を払うよりも、こういうクルマを買いたい。異論を唱える方もいらっしゃるだろうが、評判とか“プレミアム”といった評価軸はクルマ選びに錯覚を起こさせる。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)


 
 

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