クルマ漬けの毎日から
2015.04.28
3シリンダー・イリュージョン
The life-affirming three-cylinder
ロンドンとディーサイドの往復600km以上のドライブに出かける時、もっとパワフルな候補があるにもかかわらず、箱型で3気筒、68psの日本車を選ぶ人がいるだろうか? よくできたクルマならば、私はそれを選ぶだろう。今回試乗したのは、スズキ・セレリオだ。セレリオはまもなく編集部(英国版)の長期テスト車に加わり、ロードテストも実施される予定だ。今後の評価に先立って、セレリオはコンパクトでレスポンスがよくて運転していて楽しく、かつ気取らないクルマであると、まずは伝えておきたい。それに訊かれる前に答えておくが、ブレーキの効き具合も完璧だ。
手頃な価格の小型車が好きになる理由を見つけるのは簡単で、私の場合、その大きな理由として、アウディR8やBMW M3などの運転時に生じる “他のクルマとの競争” とまったく無縁になれることが挙げられる。それに、フォード・フォーカスでも入れないくらいのわずかな車間にさっと入ることができるのも小型車の面白さだ。だが、何と言ってもこのスズキのいちばんの魅力は、実にレスポンスよくパワーを発揮するところにある。5000rpm、時速110km/h、4速で長い上り坂を攻める時も、セレリオは大きな満足感を与えてくれる。この小さなエンジンが坂の頂上に達するまでその速度を維持しながら、なんと勇敢な走りをすることか。妙なことを言っているように聞こえるかもしれないが、セレリオの5倍の価格とパワーを持つクルマで、同じ上り坂を時速80km/h速く走って頂上に達したとしても、感動はほんのわずかだ。
自動車業界の重鎮たちによる今回の決断には感動させられた。彼らはロンドンの中心部で会合を開き、ディーゼル・エンジン搭載車の正当性を支持し、戦う意思を表明したのだ。ヨーロッパの新しい排ガス規制、ユーロ6が新車登録で義務化されるのは今年の9月からであるが、自動車業界は、この非常にクリーンなユーロ6に適合するディーゼル・エンジン搭載車の販売をすでにスタートしている。最近、イギリスの新聞の日曜版で、ディーゼル車の評判は傷つけられている。その主な理由は、微粒子と窒素酸化物(NOx)の排気ガスは “われわれの子供達に大きなダメージを与えている” と学術研究で発表されているからだ。
重要なのは、こういった最新世代のディーゼル車は、以前のモデルよりもずっとクリーンだという点だ。微粒子のエミッションは1996年以来、96%削減され、NOxも2000年以来、84%削減されている。クルマが大気汚染の原因から外れたとはだれも思っていないが(とりわけ旧テクノロジーのクルマが今後も走り続けるからなおさらだ)、ロンドンのような都市では、新車のディーゼルを買うことで、ドライバーはクリーンな空気に大きく貢献できるのは確かだ。
新型レンジローバー・スポーツ・ハイブリッドでロンドン中心部をゆったり走り、ドライブを楽しんだ。今回の試乗で、編集部(英国版)の長期テストカー、V6ディーゼルと直接比較することができた。混雑した道路を20kmほど走行したハイブリッドの燃費が12.7km/ℓだったのには感心した。V6ディーゼルで走っていたら、おそらく8km/ℓほどであっただろう。とはいえ、このふたつのモデルには£1万5000近くの価格差があると知り、驚いた。ハイブリッドを選択する大きな理由は社用車税の支払いを減らすためだと理解しているが、この2台の社用車税は、年額£500ほど違うだけだ。
むろん、ランドローバーはもっと大きな理由でハイブリッドを造っている。大都市では、低エミッション車を除いて、都市の中心部へのクルマの乗り入れを禁止する動きが進んでいる。それにハイブリッドの場合、EVモードで2、3km走行できる。ランドローバーのハイブリッドのさらなる利点は、コンポーネンツがうまく統合されていることだ。メルセデスやポルシェのハイブリッドより優れていると私は見ている。ブレーキ・アシストは、V6ディーゼルほど調整しやすいわけではないし、全電子式ステアリングもハイブリッドの方がわずかに抵抗があるものの、ハイブリッドとディーゼルのどちらを所有してもさほど大きな差はない。ランドローバーの統括技術者には満点をあげたい。そして、販売部門の人たちの幸運を祈りたい。
以前、AUTOCAR編集部(英国版)はマクラーレンの “オーナー” だったことを覚えていらっしゃるだろうか? 2年前の夏、私たちは12Cの長期テストをしていたのだ。そこで、かつてのマクラーレン・オーナーとして、エントリーレベルとなるスポーツ・シリーズの第1弾モデル570Sをどれほど気に入っているかこの場で少しお話ししたい。3種類のシリーズで展開されるマクラーレンは、同じツインターボチャージャーのV8エンジンとカーボンファイバー製シャシーをベースにすると発表された当初、そのパッケージングで十分なラインナップを提供できるかどうか、私には疑問だった。だが今は、妥当なモデルレンジだと思っている。
そうは言っても、たとえ私がP1を購入できるほど金銭的ゆとりがあったとしても、マクラーレンの全モデルのなかから選ぶのは、£14万前後のこの新型570Sだと思う。というのも、570Sがもっとも素晴らしいクルマに私には思えるからだ。とは言え、お金持ちの気分を知らない人が、たいていこういう発言をしがちだ。
納屋で発見された錆びだらけのポルシェ356が、グッドウッドで行われたボナムズのオークションで£3万2200ポンドという驚くべき高値で落札された。昨夜、この356がトレーラーに積まれた時に落下してまっぷたつになる夢を見て、目が覚めた。このクルマはボナムズのカタログには、£1万〜1万5000という見積り価格で掲載され、最低落札価格は設定されていなかった。だが、このチャンスに気持ちをコントロールできなくなったバイヤーが、非常な高値をつけて落札した。最近クラシックカーの価格は、1990年代初頭と同じように分別のない価格へと高騰していると思う。あの当時は、週末にサンデー・タイムズを見てフェラーリを買えば、1カ月後にはそのクルマは利益を生み出すことが可能だった。このところフォルクスワーゲン・ゴルフRのような現代のクルマでさえ、高騰していてお買い得ではないと感じた人がいるかもしれない。
今週は休暇をとっているが、現代のクルマでありがちな問題に悩まされている。それは、ロードノイズが高いことだ。かみさんと私は、今回の旅で何台かのクルマを試してみた。私たちに必要なのはやはりSUVなのだが、編集部(英国版)の長期テストカーのレンジローバー・スポーツは、別の任務に取り組んでいるため、休暇中に乗ることはできない。SUVのように基本的に大型で重量があるクルマを所有する人には、みなそれぞれ異なる大義名分がある。私とかみさんが選びたい理由は次の5つだ。1. 私たちはコッツウォルズに住んでいるが、高いシート位置から見るこの地域の石垣はいっそう素晴らしいから。2. キャビンへの乗り降りと荷物の出し入れがしやすいから。3. サスペンション・トラベルが長いから(つまり、乗り心地が柔らかい)。4. 最低地上高が高く、それに四駆なので、雪が降っても家にたどりつけるし、農場のぬかるみにクルマを止めた時も問題ない。だが、何と言っても最高のアドバンテージは、5. ロードノイズが低いことだ。現在、クルマのCO2排出量には規制があるが、これと同じように、もしフロントガラスに対するロードノイズの法的な基準値が設けられれば、大きな改善に結びつくにちがいない。