クルマ漬けの毎日から
2016.02.29
サクセスロード: 小兵たちの歩み
The success of the UK’s low-volume car makers
早起きして、エセックスにある私の心のふるさとを訪ねた。それは、ロールス・ロイスとベントレーのレストア会社、P&Aウッドの本社だ(この会社は最近ではロールス・ロイスの正規販売店でもある)。今回の私の任務は、“趣味よく磨きがかけられた” ロールス・ロイス・レイスの取材だった(このレイスの場合、“カスタマイズ” という言葉はまったくふさわしくない)。ポール・ウッドとアンドリュー・ウッドは、見識のある顧客向けにこの特別高級仕様の10台のレイスの販売を開始したばかりだ。このレイスにはメカ的な変更は施されていないが、インテリアとエクステリアはポールとアンドリューによって精巧に磨きがかけられている。二人はこの50年間、イギリスの熟練工による手作りの素晴らしいロールス・ロイスの見た目と品質、それにイメージをさらに高めることに情熱を注いできた。
P&Aレイスには16カ所の繊細で、時に手の込んだ変更が施されている(極めて効果的なひとつは、グリルの後ろのパーツをマットなブラックでペイントするという単純な変更だが、それだけで強くて低い日差しの時に余計なパーツが見えなくなる)。オリジナルでは光沢仕上げにしているインテリアパーツのなかには、趣味よく化粧張りが施された部分もある。ボディの両サイドには美しいクロームのストライプが装着され、全体的にオリジナルよりいっそう趣深い。
P&Aレイスの価格はオリジナルモデルより2万ポンド高いが、販売は好調だ。オーナーたちは魅力的なクルマを手に入れたいと同時に、ポールとアンディのことが好きだから、このP&Aレイスを買っているようだ。もし私がロールス・ロイスの顧客ならば、やはり同じように考えるだろう。
同僚のプライヤーが普段乗っている堂々とした新型車、ボルボXC90を数日間試乗した。楽しくて運転が楽で、その大部分は申し分なく造られている。だが、長期テストを行っているレンジローバー・スポーツと比べるとロードノイズが大きいのには、少し驚いた。それに低速時の乗り心地も少々硬い。XC90の車幅と車高は、私がカーライフをまずまず楽しめる限界のサイズだと思った。このクルマを運転して、毎日子供の登下校に付き合うドライバーには少し同情する。学校の周辺はたくさんの送り迎えのクルマで混雑しているから、このサイズは少し大きくて取り回しが大変だろう。
長期テストを実施しているベントレーで早朝に家を出発し、リバプールへ向かった。今日取材するのは、BAC(ブリッグズ・オートモーティブ・カンパニー)という初めて訪問する会社であるが、ここで働く人たちは、“モノ(Mono)” という名のシングルシーターで公道走行が可能なレーシングカーを造っている。ブリッグズ兄弟と22名のスタッフは、ジャガー・ランドローバーのヘイルウッド工場の近くの敷地で、これまでに50台のクルマを製造してきた。
私を迎えてくれたニール・ブリッグズは、2016年スペックのモノやまったくの新型モデルについて話してくれたが、何より印象的だったのは、イギリスの少量生産自動車産業の発展をこの工場が実によく示していることだった。その昔、いわゆるキットカー(組み立て式のクルマ)のメーカーは、簡素で大雑把な仕上げのクルマを組み立て、フォード・エスコートより安い値段で売っていた。だが、今日では、BAC、アリエル、ケータハムなどの会社は、大手自動車会社が造るクルマよりもっと急進的で、かつスイス時計のように高品質なクルマを目指している。そうすれば相当の金額を払ってでも手に入れたいと考える人たちがいることに気がついたからだ。とりわけ、管理が行き届いた彼らのビジネスは、大きな自動車会社と同じくらい持続可能なように思える。
パリ郊外にあるルノーのテクノセンターに日帰りで出かけた。今回の取材の目的は、ルノーのF1への本格的な復帰発表をこの目で確認することだ。CEOのカルロス・ゴーンはこのプロジェクトを統率して来たが、彼は以前モータースポーツに熱心ではなかったので、当初私はルノーの本格的なF1復帰に疑念を抱いていた。ルノーとロータスとの関係が難しかったこと、また、ルノーがエンジンを供給しているレッドブルとの不名誉な諍いによってまちがいなく痛手を受けていることを鑑みれば、ルノーは単純にF1との関わりを一切絶つ道を選択するのではないだろうかと思っていた。
だが、ルノーのF1復帰への決意は力強く、そして喜ばしい内容だった。ゴーン本人とチーフ・テクニカルディレクターのボブ・ベル(メルセデスで3年活動した後、ルノーに復帰)を含め、この日私が話したルノーの人たちは全員同じメッセージを伝えていた。ルノーは勝つためにここにいること、長期的に戦うこと、そして市販車のルノー・スポールといっそうつながりを強めていきたいと話していた。ゴーンはF1ティームには2018年に表彰台に上がってほしいと考えており、これは実現可能だと語っていた。ある内部関係者は、「ルノーはライバルティームよりもよい冬を過ごしていると思います。メルセデスと自分たちのタイム差は、これまでより3割ほど縮まったはずですよ」と話した。それはさておき、ルノーの2016年シーズンに最も期待したいのは、ルノー・エンジンを搭載するレッドブルに勝つことだ。しかも接戦ではなく、大差での勝利を期待したい。
発想からデザイン、エンジニアリング、製造まですべてイギリスで行われている日産キャシュカイが、イギリスの1月の販売台数でフォーカス、ゴルフ、コルサ、アストラなどを上回って堂々2位に輝いたというニュースを聞いて、思わず頰がゆるんだ。キャシュカイの他に販売台数トップ10に入ったSUVは日産ジューク(6位)だけで、プリメーラとアルメーラの代替モデルとして、この2台のソフトローダーを投入したのが正しい決断であったことが明らかになった。以前、日産の副社長だったアンディ・パーマー(現在はアストンのトップ)はこの結果を聞いて、微笑んだにちがいない。ヨーロッパ市場でまだSUVが盛り上がっていなかった頃に、パーマーはキャシュカイのプロジェクトを推し進めた。だが今、SUVはヨーロッパ市場で大人気だ。
フォードはカー・エンスージァストとの関係にいつも成功しているが、その秘訣をひとつお話しよう。それは、クルマのパフォーマンスとドライビングの質というものに、読者の皆さまや私と同じくらい関心がある人たちをいつも経営陣に据えているからだ。欧州フォードのトップ、ジム・ファーリーは、ル・マン・クラシックに自身が所有するローラ製のレーシングカーで参戦している。ファーリーはまた、新型フォーカスRSに対してAUTOCARがどう評価しているかをいち早くウェブサイトでチェックしたことを何気なく話していた(フォーカスRSは今年最初にAUTOCARの5つ星評価を得たクルマ)。ファーリー陣営はフォーカスRSの販売に苦労しないだろう。価格も£29,995(470万円)とお買い得だから、なおさらだ。