社会人1年目、ポルシェを買う。
2016.04.16
第3話:996ってどうだろう?
買えないじゃん。と、ふて腐れたのも束の間。
iPhoneでGoo-netのアプリを開き、
お得意の「ドイツ車→ポルシェ→911→安い順」
で探しなおしてみることにした。
しかしやっぱりボロいのしかない。
そもそも ‘涙目’ といわれる、
ライト下端がぐいっと内側に張りだした
911のオンパレードだし、それもティプトロばかり。
やっぱあれ、かっこ悪いよなぁ。
しかもティプトロってどうなのよ。
え? 16万km? 安いと思ったら ‘修復歴あり’ だし……。
空冷のあの乾いたシャンシャン鳴る音を思いだすと、
なんだか、これまで目をそらしてきた現実に
ぶち当たっているような気持ちになって悲しくなった。
そっとiPhoneを閉じた。
それからというもの、
顔見知りになった評論家の方々や
ベテラン編集者と顔をあわせるたびに
「996ってどうなんですか?」と聞いてまわった。
諸先輩の意見を総括すると、
「君にお金があり余っているのならば
ムリに996を薦めないけど
あれもあれできちんとしたポルシェ」
ということだった。
「きちんとしたポルシェ……」
それが一体どんなものだったのかが気になったから、
996の実際を見るために、自宅からいけそうなお店に足を運んで
試乗してみることにした。
見にいく最初の1台は素のカレラに。
埼玉県の南東部にある10万kmを超えた個体で、
200万円台後半の後期型。
ティプトロニックを組みあわせている。
先輩と一緒に2時間かけて電車でいったお店で
担当してくれた店員さんは、整備が得意とのこと。
ポルシェ自体のことはあまり詳しくなかったけれど、
流通にはすこぶる詳しく、気さくに接してくれた。
話もそこそこに、お目当ての個体をみてみると
外装は、リップ部分の塗装が剥げており、
ホイールには4本ともガリ傷が入っていた。
インテリアも比較的きれいだけど、
時代遅れの使いにくそうな外付けナビが
ダッシュボード上にボルトで固定されて、
コードがだらしなくたれさがっていた。
要するにちょっと萎える個体である。正直にいって。
だけど、予算が限られているのだから仕方がない。
それに実際に乗ると感動するかもしれない。
免許証のコピーをとってもらい、いよいよ試乗だ。
ギアレバーをDレンジにガチャガチャといれて、
ブレーキを離すとスルスルと前にでた。
2速発進だということもあって、とても静かだ。
‘930の悲劇’ が嘘だったかのよう。拍子ぬけした。
気になったのはボディの動きだ。
なんだか、ブワブワしていた。
ポルシェはほとんど乗ったことがなかったけど、
これまでの経験を遡ると、どう考えてもおかしかった。
ダンパーが抜けていたのだと思う。
路面の継ぎ目を踏んだ直後の
ボンネットの動きを眺めていると、
ふわっと浮きあがったあとに、頼りなく沈みこむ。
この動作を5、6回ほど繰り返して、やっと収束する。
見るともなしに先輩の顔を眺めても、
どこが表情がくもっていた。
930の印象が、
あまりにも鮮やかだったのかもしれないとも考えた。
あるいは、理想を抱きすぎていたのか、とも。
あまり期待はしていなかったのだが、
はるばる見にいっただけに、
帰りの電車のなかは先輩との会話も
あまり弾まなかった。
※今回も最後までご覧になってくださり、
ありがとうございます。
今週中ごろより、
「社会人1年目、ポルシェを買う」専用の入口が
トップ・ページの右側に設置されました。
日を追うごとに、
記事をご覧になる方々の数が
加速度的に増えているのですが、
専用入り口が設置されてからは、
これまでの比ではないくらい増えており、
びっくりしています。
最初のページを公開した直後の1時間は、
ちかくの公民館に入りきれるくらいの数の人が
クリックしてくださっていて、
「ほそぼそとやっていこう」
というくらいに思っていたのに、
今ではちょっとしたコンサート・ホールでも
手狭になるほどの数の方々が
ご覧になっているようです。
現実の世界で皆さまを目の前にして
文を音読する光景を想像すると、
頭がくらくらしてきました。
今後とも、[email protected] まで、
皆さまの声をお聞かせください。
もちろん、なんでもないメールだって
お待ちしております。