社会人1年目、ポルシェを買う。
2016.07.27
第24話:タイヤのいろいろ。4
石井昌道さんは、静かにあらわれた。
それから淡々と名刺交換を済ませ、
(じつは会うのはこの日がはじめて)
「PS2 N3だよね? 久しぶりだなぁ」と
誰にいうともなく、汗を拭いながらいった。
数々の媒体に寄稿する、いわば売れっ子ライターだけど
「おれはジャーナリストなんだ」みたいなところがなく
とても淡々と、そしてあっさりしているなぁと思った。
タイヤを知るための旅のはじまりである。
このドライブを終えると、疑問に思っていたことが
解決するかもしれないと思うと、ドキドキしてくる。
とにかく質問に質問を重ねてみることにした。
僕:わかっているつもりでも、結局は
タイヤのどこをみればいいのかわからないです。
「タイヤは奥深いねぇ」で終わらせるのは簡単だし
「みんな違ってみんないいね」って結論づけるのも、
こなれたパッケージとしてはありますけど、嫌です。
ここがよくて、ここが悪い、みたいなものを、
はっきりと自分で見極められるようになって、
結論がだせるようになれたらと思っています。
石井さん:うんうん、賛成です。
タイヤってさ、試しに履いてみるってことが
できないんだよね。いつだって絶対評価。
インプレッションできるようになるっていう
目標を叶えるのは結構たいへんなんです。
じぶんのなかに評価のモノサシをこしらえるには、
‘ほかと比べてどうか?’ がわからなきゃいけないよね。
違う種類のタイヤを同じクルマに組みあわせて、
同じところを、同じように走るという体験を積み重ねて
ようやくわかるようになるものなんだ。
僕:なんだかいきなり途方もない気持ちに
なってきたような気がします。
石井さん:ただ、‘どこを見るべきか’、
ってのがわかっているだけでも、ぜんぜん違うよね。
あ、そうそう。プロでもそうでない人でも、
感じていることそのものは同じなんだよ。
僕:でもプロは、サーキットとかで
徹底的に走らせてタイヤを評価するんですよね?
石井さん:とくにメーカー所属のテスターは
そうするよね。だけど、サーキットを走らせることで
かえって、わからなくなることもいっぱいあるんです。
0か100を見るよりも、日頃よくシャカイチ号を
走らせる環境やコンディションで、繊細なところを
きちんと観察してあげる必要があるんだ。
僕:繊細なところとはつまり……
石井さん:(ほんのすこしだけハンドルを切って)
このへんとかを観察します。微舵。微舵領域。
僕:切ってすぐ、ノーズが動きはじめる
瞬間ということですか?
石井さん:そうそう。テスト・コースでは
アスファルトにいろんな種類の白線が引かれていて、
それをなぞるようにしながらボディがどう動くかを
いろいろなタイヤで試すこともあるんだ。
僕:動きはじめが、どんな感じだと評価は高いんですか?
石井さん:
切ったら切った分だけ、動いてくれることが大事。
もちろん君も知っているとおり、
ポルシェはそこがよくできている。たとえば、
アクセルを踏んだら、踏んだだけ進むだとか、
ブレーキを踏んだ分だけクルマの速度が緩むだとか
そういった直感的なドライバビリティをタイヤが
まったく台無しにしていないことが大事なんだ。
※今回も最後までご覧になってくださり、
ありがとうございます。
ドライバビリティということばを、いつか
石井さんみたいに、サラッと使ってやろう、
と心のなかで決心しました。
次回以降は、グリップ、ブロック形状、ノイズ、
などの話に踏み込んでいこうと思います。
レポートをはじめる前は、きっと3話くらいで
おさまるのだろうと思っていましたが、
やはり学ぶ内容は、濃く、深く、多岐にわたる。
せっかくだから、皆さまとすべてを共有したく、
「タイヤのいろいろ。」シリーズは、
じっくりと文字数を気にせずにすすめたい。
これはもう意地みたいな部分もあります。
ウェブって、こういうところがいいよなぁ。
今後とも、[email protected] まで、
皆さまの声をお聞かせください。
もちろん、なんでもないメールだって
お待ちしております。