社会人1年目、ポルシェを買う。
2016.08.17
第27話:あなたのポルシェに乗せてください! (997 PDK編)
福岡県に、親友がいる。
大学生のころは、ほんとうによく一緒に遊んだ。
年は離れているけれど暇を見つけては走り回った。
いまでもほぼ毎日、メールのやり取りをしている。
もちろん帰省すれば、時間を見つけて会っている。
それにしても、町というのは変わるものである。
およそ半年おきの帰省なのに町はじつによく変わる。
おばあさんがひとりで暮らしていた家はサラ地になり、
古びた商店はピカピカのコンビニになっていたりする。
帰るたびに膝をつきわせて話をする幼なじみに
いつのまにか彼氏ができていたりもする。
(彼女は別れぎわに「おしあわせに!」といった)
変わらないようで、変わっているのである。
少しずつ、僕の戻る場所もなくなっていくのだろう。
‘大学生のころ、ほんとうによく遊んだ’ ということは、
福岡県の親友もまたクルマを愛する人間のひとりだ。
彼がどれくらいクルマが好きか
―あるいは特定のクルマをこよなく愛するか―
については、
「2台のBMW M5(5ℓV10を載せたモデル)を
同時に所有している」という事実を書くだけで
十分におわかりいただけるのではないだろうか。
そんな彼についてはもう少ししてから語るとして、
(シャカイチ号よりも彼のほうに興味があるかたも
一定数いるのではと予想する。
Mモデルのオーナーからいただくメールが
ポルシェ・オーナーのつぎに多いからだ。)
帰省した折に、彼がひょんなことから乗ってきた、
997型のカレラS(後期でPDK)について、
今回はなにか書ければと思っている。
わが家のまえに彼が到着すると、
エンジンをプンとひとふかしするのが
いつもの決まりごとのようになっているが、
今回はM5のV10ユニットの甲高い音ではなくて
ジャラジャラといった憂鬱そうな音が響いた。
小屋にいた犬(ビーグル)はとくに吠えなかった。
彼が乗ってきた2009年型のカレラSは、
PDK、スポーツ・クロノ、テラコッタの内装、
白い外装にサンルーフ、といった組みあわせ。
あいさつはほどほどにさっそく隣に乗せてもらった。
もちろん僕の996との比較になるわけだけれど、
あたらしいポルシェはぐにゃぐにゃしていない。
ホイールは19インチだが、
コツコツといった下からの入力にたいして、
ボディがごわごわと動いたりもしない。
段差を超えるたびにAピラーの上端が
がギシっといったりもしない。
ボディが動じないというのが、ただしいのかも。
ボディが動じずに、アシだけがハタハタと動く。
音もかなり男っぽい。
キーをひねると、結構大げさにヴァンと吠えるし
そこからジャラジャラ〜といったアイドル音に転じ、
アクセルを踏むとジャーーン!という。勇ましい音だ。
いじわるしてアクセルから足を離すと、ッパンという。
あたらしい〜と思った。悔しさみたいなのも感じた。
見た目もすこぶるかっこいい。
「996はですね、ちょっとマヌケな感じが、
今となっては逆にいいと思うんですよ。
ほらこのオレンジのマーカーとかね」と、
ことあるごとに言っていたのだけど、
バシッバシッと光るLEDのウインカーや、
キセノンの青白い光を目の当たりにすると
僕の996が一気に古いクルマに見えてきた。
そういえばこのあいだ、
ギャラリー・アバルト 自動車美術館の
元館長である山口寿一さんのところへ、
トンカツ先輩が連れていってくれた。
初対面の山口さんにポルシェをもっているというと
「てこたぁ、あれだな。君は、今後ずっと永遠に
自分のより古いポルシェ、あたらしいポルシェ
速いポルシェを羨む運命をたどるわけだな」と
パイプをくゆらせながら山口さんはおっしゃった。あぁ。
※今回も最後までご覧になってくださり、
ありがとうございます。
なんだろう、この悔しさみたいなものは。
だって、997後期はかっこよすぎるもの。
いかんいかん996もいいところはあったはず。
それをたしかめるために、
Iくんのボクスターと連だってヤビツ峠にいく。
今後とも、[email protected] まで、
皆さまの声をお聞かせください。
もちろん、なんでもないメールだって
お待ちしております。