社会人1年目、ポルシェを買う。
2016.09.28
第33話:きみのスキルは30点。(一般道編)
笹本編集長兼社長がかつて設立した
ネコ・パブリッシング社の40周年パーティーがおわり、
ご自宅で合流したのは夜の9時をまわっていた。
こんな遅い時間に合流したのは、
翌日に愛知県名古屋市役所をスタートする、
‘ジャパン・クラシック・ツアー2016’ に、
シャカイチ号にのって、ふたりで参加/取材するため。
ロング・ドライブのよい機会ということで、
シャカイチ号での参加とあいなった。
どこか気もちが落ちつかなかい理由として、
はじめてじぶんのクルマで参加するラリー・イベントが
たのしみでならなかったのも、もちろんあるけれど、
「おれはこれから社長をとなりに乗せるんだ」
という、気概のほうが大きかったからだとおもう。
できるかぎりそろそろと進み、はやばやと変速し、
かといってだらだらとならない程度に
能率的に移動することだけをシュミレーションしていた。
「じゃ、ふたりとも気をつけてね」と奥さまに見送られ、
アクセルを軽く踏んで、ふわっとクラッチを……
ガクンッ! いきなりエンストである。もう!
「なんだおまえ緊張してんのかよ、わっはっは」と、
どこかうれしそうな編集長の高らかな笑い声。
「ま、好きに運転してくれや。おれは寝るからよ」
と、いった直後には編集長はもう目を閉じていた。
とにもかくにも気を取り直すしかない! と
エンジンをかけると「ッキューーーーン!」という
あの不気味な音。出発早々に帰りたくなった。
で、なんとか発進して5分くらい経ったころだろうか。
「はい、だめー。だめです」と寝ていたはずの編集長。
「なんでそんなにはやくシフト・チェンジするんだよ」
と一喝された。社長をとなりに乗せるドライブとしては
われながらまずまずだと思っていたのだけど
「ポルシェのエンジンはなぁ、回さなきゃだーめ」
そうだ。社長の以前に、AUTOCARの編集長であった。
「ちょっと変わってみ」ということで、
いきなり運転を交代。編集長はけっこう回した。
といっても、からだがのけぞるような荒い運転ではない。
発進時、クラッチ・ミートする回転数はアイドリング+α。
ふわっとなめらかにギアをあげたあと、
4000〜5000rpmまで引っぱって、またふわっと変速。
‘ゆっくりなのに速い’ とでもいおうか。
自然でリズミカルだった。
「きみさ、エンジンって回すと壊れるとおもってるだろ。
いい? あのね? エンジンは回さないほうが壊れるの。
回さないと焼きつく。回すことで油圧をかけて、
きちんとオイルを回してあげなきゃならんのだよ」
「さっきみたいな乗り方だと、壊しちまうぞ。
たぶんだけど、6速、1500rpmでふらふら走って、
トルクに頼ってそのまま追い越ししたりしてるだろ」
図星である。けっこうだらだらと走るのが好きなのだ。
「あとさ、さっきみたいな乗り方だと、
ポルシェに乗る意味みたいなのが薄れちゃうんだ。
低速だとバサバサいってるだけだけど、
回すと、ほれ、ポルシェらしい音がするだろう?」
編集長はニンマリとしている。
うしろから、ジャーーン! という
いかにも機械が仕事をするような音が聞こえてくる。
心なしか、シャカイチ号も「やっと出番だ」と
気持ちよさそうにしているような気もしてきた。
それからは意識して高速道路の巡航でも、
エンジン回転数を3000rpm以下に落とさないようにした。
すると、いつもより1段低いギアでの巡航となり、
自然と走りにもメリハリがでてきたように思える。
後日談だが、これを1週間以上つづけて、音がよくなった。
3500rpmあたりから、ふぁぁんという、いままで
聞いたことのない、軽やかな排気音が聞こえるようになり、
いつもと同じようにアクセルを踏んでいるだけなのに、
明らかに軽くエンジンがまわるようになったのだ。
だが、よろこんだのはつかの間。
翌日からはじまったラリーの峠道のセクションでは、
回転数のはなしとは比べものにならないくらい、
ぼっこぼこに怒られたのでありました。
※今回も最後までご覧になってくださり、
ありがとうございます。
「なぁんだ、しょぼくれた顔してぇ」と
ルマン・ガレージの北島さん。
エンジンの構造に関する質問をしにいったついでに
ラリーで編集長にしぼられた話をすると、
「ま、あれだな。ササヤンは君に、
ポルシェらしい乗り方を知ってほしかったんだよ」
と、なぐさめていただきました。
気もちよくエンジンが回るようになったのは、
これまで溜まっていたカーボンが抜けきったから。
「ようやくポルシェっぽいエンジンになっただろう」
と北島さんもおっしゃっていた。
ポルシェにはポルシェの乗り方があるのだなぁ。
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