社会人1年目、ポルシェを買う。
2018.07.29
前回の読みもの「古いポルシェは、たいへんなのか。」も多くの反響を呼びました。「決して安楽ではないけれど、がんばれる」というのが多くのメールに共通していたことです。が、思ったより早く、993を買ったI君は悩まされています。そして、僕はちょっと怖気づいています。
第69話:空冷ポルシェ購入のI君、いきなりの洗礼。
もくじ
1通の短いライン
I君からラインが届いたのは急だった。
短い文字だった。
「太朗ちゃん、993あかんわ」
僕たちは会うことにした。
場所は世田谷通り沿いのガスト。
先に着いてメニューを見ながら待っていると、
明らかに疲れきった表情でI君はお店に現れた。
「あついわ。あつすぎ」
汗をびっしょりかいていたことが気になった。
一気に水を飲みほしたあとにI君は口を開いた。
「エアコン、効かなくなりました」
「あつすぎて、ここに来るまでの記憶さえ
なんかふわっとしてるわ……」
後からわかったことだけれど、
エバポレーターの故障が原因だったという。
納車からわずか10日目のことだった。
「ボクスターは当たり前に冷たい風が吹いてきた。
それを考えるとショックは大きいけどさ
故障は整備すれば直せるから何とか受け入れる。
ポルシェセンターのフォローもありがたいしね」
「すごい金額を払って買ったクルマなのに
こんな地獄みたいな気分を味うのは、
ほんとうに腹立たしいけどさ。
ま、好きで買ったクルマなんだし」
そもそも空冷ポルシェなんて趣味のクルマである。
ここは東京。あらゆる交通機関があるのに
好んで20年も前のクルマを買ったのだから、
ある程度のことを受け入れるべき
という意見もあるし、それを否定はできない。
しかし、納車の日の弾けるような表情から一変、
汗でどろどろになったI君を目の前にすると、
そんな正論のようなものは通用しないと思った。
「ただ、あともうひとつ、
途方にくれていることがある」とI君はいう。