社会人1年目、ポルシェを買う。
2018.08.26
第72話:男は決めるよ。(望郷篇)
ガレージ、という男の夢
数年前に購入したマンションも
ひとことで言って立派だった。
石の廊下はぴかぴかだったし
リビングには光がたっぷり入った。
お風呂も大きかったし部屋も多かった。
1階にはコンビニと歯医者、
それから中規模のジムもあった。
慎重に、そしてこだわりをもって
家具を選んでいることがよくわかる
そんな新築のマンションに住んでいた。
駅まで歩ける距離だったことを考えると、
建てたばかりのガレージつきの家は、
少なくともクルマ必須の山沿いにあった。
その代わり、景色はすばらしかった。
東側には、なにひとつ遮るものがなく、
小さくも大きくもない街が180°見渡せた。
それだけではない。その向こうには海。
きらきらと太陽の光を反射させる先には
船でしかゆくことのできない小さな島も見えた。
建物は、コンクリート打ちっぱなしの円筒形。
まんなかに1本の木があり、そこを
エントランスから続くリビングが囲む。
さらにリビングをガレージがぐるりと囲む。
壁は大きくくり抜かれ、
外からは中が見えない一方
中からは、停めているクルマを見ることができた。
ガレージには
シンプルだけど座り心地のいい
ファブリックのソファが鎮座。本棚。
奥にはエスプレッソマシンが置かれた
(高価なものなのだろう)一枚板のテーブル。
見たことのある、ほっそりとしたハイチェア。
クルマたちはあくまで雑然と並べられている。
心なしか、クルマたちものびのびとしていた。
「休日になると、社員を呼んだりしてね……」
自慢話はほとんど耳に入ってこなかったけれど、
とにかくその空間は、男心を満たし、
努力すればこんな素晴らしい生活が待っているのか
と思わせてくれた。心の底から羨ましいなと思った。
「先輩、
どうやったらこんなすごいガレージを
持つことができるのでしょうか?」