社会人1年目、ポルシェを買う。

2021.12.19

「社会人1年目、ポルシェを買う。」の上野太朗です。カートの公式耐久レース参加レポート(最終回)をお送りします。

【社会人1年目、ポルシェを買う。】第147話:カート公式レースに参戦(最終回)

カート公式レース、最終回です

2021もてぎKART耐久フェスティバル。
ついに本番だ。午前9時30分、
ローリングスタート方式で4クラス、
95台のカートマシンがスタートした。
僕たちマシンは62番手から。
ポジションはくじ引きで決まった。

「クラブレーシング」チーム4台のうち
メディア関係者がハンドルを握る1台を
4名で繋いでゆく。

この日は快晴。
僕は3番目のドライバーとなった。

僕より前のドライバーが
順調に周回数を重ねてくれた。
毎年何かしら現れるというトラブルも
今年はまったくなかった。

どきどきしながら僕のターンを待つ。
マシンが戻ってきた、乗り込む。
皆が背中を叩いてくれる。
「楽しんできてね!」
なんかもう涙でそう。

いざサーキットに出る。
怖さはまったく消えていない。
本番の周回数は、
プラクティスより遥かに多い。

繰り返し繰り返しコーナーをやり過ごし
安定したタイムを安全に積み重ねてゆく。
コツコツと、ずっと。

途中から不思議な感覚になる。
あれほど肩に力が入っていたのに
急に視界がひらけてきたような感覚。
必死にエイペックスを探したコーナーも
出口、いや次のストレートまで見える。

最初はただ怖いだけだったけれど
緊張感を保ったままリラックスしている。
まだまだ速いドライバーには敵わないが
途端にタイムが縮まった。少しずつ。

そこでようやく、
かすかなタイヤのスキール音を聞き分け
グリップの状態を感知できるようになったし
限界近くになると
フレームから「パキン、パキン」と
捩れる音が聞こえるようになった。

チームの速い人たちの会話の断片を
体感できるようになった。

最終的にチーム全体で
合計109ラップを走りきった。
距離にすると、
52万3350.311m。523km!
あのだだっ広いコースを、
あの暑さで、あの怖さとともに……!

その間、
お昼ごはんさえpcの前で
画面とにらめっこして召し上がりながら
張り付きでタイム計測をして頂いたり、
また突発的なトラブルや
細かなマイナートラブルに備えて
1日中つなぎを着て作業にあたられた
メカニックの方々、
美味しいお昼ごはんを何日も前から
仕込んで頂いたベテランメンバー……。
挙げるとキリがないけれど
とにかく多くの方の影の力を知った。
どれか1つ欠けても成り立たない
チームの頭脳戦に心を打たれた。

運良くラストラップを担当させて頂き
マーシャル全員が小屋からでて
フラッグを振ってくれたことも感動だった。

16時30分。ついにゴール。
21位というポジションでゴール。

この瞬間、
練習中のコースアウト後
メカニックの方が
僕に言ってくれた事を思い出した。

「そんな暗い顔しないで!
 仮に壊れたとしても直すだけ。
 『ちょっと攻め過ぎちゃった』
 って笑っていればいいんですよ」

1つ欠けると成り立たない
レベルの高い頭脳戦。
もう1つ欠けると
もっと成り立たないものがあった。

それは温かさ。
初めての顔合わせから本番終了まで
この温かさが一貫してあったから
僕はなんとか最後までやりきれたのだと
実感した。

記事に関わった人々

  • 執筆

    上野太朗

    Taro Ueno

    1991年生まれ。親が買ってくれた玩具はミニカー、ゲームはレース系、書籍は自動車関連、週末は父のサーキット走行のタイム計測というエリート・コース(?)を歩む。学生時代はボルボ940→アルファ・スパイダー(916)→トヨタ86→アルファ156→マツダ・ロードスター(NC)→VWゴルフGTIにありったけのお金を溶かす。ある日突然、編集長から「遊びにこない?」の電話。現職に至る。

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