クルマ漬けの毎日から

2022.07.09

フェスティバル・オブ・スピードが行われる地として有名なグッドウッドで、この春に「メンバーズ・ミーティング」というイベントが開催。クロプリー編集長は、W.O.ベントレーが愛用していた1930年製の車両を運転して、現地へ向かったそうです。

【クロプリー編集長コラム】現代のレースに欠けているもの 1930年製のベントレーでグッドウッドへ!

もくじ

1930年製のベントレー8リッター
メンバーズ・ミーティングのレース観戦 その魅力

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)

1930年製のベントレー8リッター

その日はなんとも嬉しい朝を迎えた。というのも、私たちはグッドウッド・メンバーズ・ミーティングに向かっていたからだ。

この会は、2022年にグッドウッドで行なわれるクルマの3大イベントのなかで一番手となる4月に開催されるもので、また最も親しみやすいイベントでもある。

晴天に恵まれたうえに、私たちは驚くべきクルマで会場へ向かっていた。

それは、1930年製のベントレー8リッター。ベントレーが所有しているそのクルマは、コーチビルダーのマリナーがボディを手掛け、創業者のW.O.ベントレーがかつて個人的に乗っていた「カンパニーカー」なのだ。

そのベントレーを運転して、グッドウッドまで10mile(約16km)の道のりを走ったことは、クルマの進化の方向性について多くを学ぶ経験となった。

暖機されるまで、大型直列6気筒エンジンは点火に失敗して、まるで重たい荷台を引く馬のように安定しなかった。ステアリングホイールを回すには、鍛冶屋並みの腕力が必要だ。

たとえノンシンクロメッシュのトランスミッションを上手く操作できる人でも(私は上手くない)、オイルが完全に暖かくなるまで、スムーズにギアチェンジすることはできないだろう。

しかしその一方で、ベントレー8リッターのラグジュアリーとスタイルは、今日のトップクラスのクルマと互角に戦えるほどレベルが高い。また視認性は、この1930年モデルの方がずっと優れている。

なかでも際立っていたのは、(暖機後の)エンジンが機械的に極めて洗練されていることだった。さらに、1000rpmからの力強いトルクにも驚かされた。ある意味、ヴィンテージカーは少しも古いクルマではない。

メンバーズ・ミーティングのレース観戦 その魅力

グッドウッド・メンバーズ・ミーティングでは、レース前の練習走行と本番を見て楽しい午後を過ごした。とくに、このユニークなサーキットの長い高速コーナーが、レースにもたらす影響を楽しんだ。

さまざまなクルマが登場したが、そのなかでも「ジェリー・マーシャル・トロフィ」に出場した70年代と80年代のサルーンのコーナリングは、興味深かった。

この時代のクルマは今日の標準からすれば、重量が大きすぎ、重心も高く、タイヤも細いため、グリップが十分とはいえない。

私が見ていた場所からは、派手で大胆なアングルのドリフトが、とても優雅にコントロールされているように見えた(しかし、ドライバーたちはステアリングと格闘しながら走っていたにちがいない)。

こういう経験をすると、いつも私の頭にはある思いが浮かぶ。

クラシックでもヴィンテージでもない現代のレースでは、私が見たこの日のレースと比べて、どれほどのリアリティを観客に伝えられているだろうかと。

グッドウッド・メンバーズ・ミーティングでは、ドライバーがどのようにクルマをコントロールしているかが、ドライバー自身とほぼ同じように、100m離れている観客もはっきりと感じることができる。

現代のレースシーンでも、同じようにドライバーの素晴らしいスキルを感じながら観戦できれば、もっと多くの人たちが感動を味わえるにちがいない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。

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