まるで洗練されたアウトドアギア ジープ初のBEV、アべンジャーに試乗

公開 : 2024.10.04 13:00

前輪駆動のジープ初、セレクテレイン™システムを装備

BEVなのでスロットルの踏みはじめから力強い加速を見せるが、それよりも驚かされるのは乗り心地の部分だった。215/60R17インチのタイヤとストローク感たっぷりのアシによる縦バネの動きが非常によくバランスしており、きびきびとした引き締まった印象と、ゆったりと上質な感じが同居している。それでいて、床下バッテリーのBEVにありがちなフロア部分の妙な重さも感じない。クセのない小さな高級車然としているのである。

回生のフィーリングは標準では制動感が弱くて伸びやかな感じ。一方シフトのDボタンをもう一回押してB(バッテリー)モードを選ぶとほどよくブレーキがきく感じだが“ワンペダル”と呼ぶほどではない。この点でも既存のBEV感は希薄といっていいだろう。

ここまでの動的質感は、優れたヨーロッパの小型車を思わせる感じだが、アベンジャーにはジープらしさもちゃんと込められている。それがジープでおなじみのドライブモード選択であるセレクテレイン™システムと、ヒルディセントコントロールである。

これまでもFFのジープは存在したが、セレクテレイン™システムは付いていなかった。つまりアベンジャーはブランド初のセレクテレイン™システムを備えたFFモデルなのである。普段はエコ、ノーマル、スポーツの3つのモードから、オフロードや悪天候ではサンド、マッド、スノーという選択肢が心強い。また滑りやすい急な斜面を安定して走破できるヒルディセントコントロールもジープらしい走りに欠かせない装備といえるだろう。

無駄を削ぎ落し、実用性を追求

今回は都心での試乗となったが、ものの10分も運転していると、クルマが体に馴染み自然な感じでドライブできるようになる。

ボディの実寸はもちろんだが、車両感覚としてもコンパクトな感じがひしひしと伝わってくる。また視界も良くスクエアなボディの見切りもいいため細い路地にも躊躇なく入っていける。またロードクリアランスも十分なので路肩の段差も気にならないし、狭いコインパーキングにも気兼ねなく入っていける。

一方、少しだけだが首都高で先進運転支援システム(ADAS)を試すことができた。ACC(アダプティブクルーズコントロール)とレーンキープアシストはメーターパネル内の表示を含め扱いやすかったが、渋滞にはまりがちだった今回は自然な感じでストップ&ゴーを行ってくれるトラフィックジャムアシストの完成度が高いことも実感できた。

コンパクトなサイズ感による使い勝手の良さと、見た目の質感の高さ、そして高級車然とした座りのいい走りがギュッと凝縮されている。無駄なものを極限まで削ぎ落したようなアベンジャーの質感は洗練されたアウトドアギアを彷彿とさせ、その点でもジープらしさが強く薫る。ジープ・ファミリーに興味深い1台が加わったと言っていいだろう。

ジープ・アベンジャー 公式サイトを見る

記事に関わった人々

  • 執筆

    吉田拓生

    Takuo Yoshida

    1972年生まれ。編集部員を経てモータリングライターとして独立。新旧あらゆるクルマの評価が得意。MGBとMGミジェット(レーシング)が趣味車。フィアット・パンダ4x4/メルセデスBクラスがアシグルマ。森に棲み、畑を耕し蜜蜂の世話をし、薪を割るカントリーライフの実践者でもあるため、農道のポルシェ(スバル・サンバー・トラック)を溺愛。
  • 撮影

    神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。

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