【カギは水と温度】ダンロップ・シンクロウェザーの実力を検証:座学編 性質が変化するアクティブトレッド

公開 : 2025.02.14 14:00

ドライでは高剛性、ウェットではしなやかに

モノが形を保っているのは、原子同士が結びついているから。単独で存在する原子はとても不安定で、ほかの原子と結合して安定しようとする性質を持っています。その結びつき方はいくつかありますが、つながりの強力なものは3つです。

まずは金属同士の結合で、今回の説明に関係ないので割愛。残りの2つは『共有結合』と『イオン結合』です。

コンパウンドの性質を変化させるスイッチはふたつで、ひとつめのスイッチは水。ポリマーのイオン結合が濡れると離れ、乾燥すると再び結合する。

『共有結合』とは、原子間で電子を共有する化学結合で、非常に強力。対して『イオン結合』は、+イオンと-イオンが静電気力で引き合うことで、原子と原子が結びつきます。

従来のタイヤのコンパウンドはほぼ共有結合をしていますが、その一部をイオン結合に置き換えたものが、今回新しく開発されたコンパウンドです。

乾いた路面ではポリマー同士が強く結びついているので、夏のゴムコンパウンドに求められる剛性(弾性)を発揮。しかし、雨が降るなどしてタイヤが水に触れると、イオン結合が解かれることでコンパウンドが柔軟になり、ウエットグリップを高めます。そして、乾くと再びイオン結合部分が結びついて剛性(弾性)を取り戻すのです。

ドライ路面では、ハンドリングや耐摩耗性を考慮した剛性が必要だが、高すぎるとウェット路面でのグリップが不足する原因となってしまう。

そもそも、タイヤの剛性を高くする目的は、運転時の応答性を良くすることだったり、耐摩耗性を高めることだったり、さらにはハイグリップコンパウンドのグリップ力に釣り合う剛性が必要なことだったり、いくつか考えられます。

シンクロウェザーの場合、強力なグリップ性能こそ求めていないものの、制動性能や旋回性能、応答性などを高めるため、急制動や急旋回などの際もサマータイヤと同等に変形の少ない≒剛性の高いコンパウンドを採用。これは、耐摩耗性にも寄与しています。

一方、ウエット路面でグリップ性能を高くするには、より柔軟なゴムが路面の小さな凹凸に追従(密着)してくれるのが望ましいです。

この相反する要件を両立してくれるのが、硬軟切り替え可能な水スイッチというわけです。

ダンロップでは、サマータイヤの『ENASAVE EC204』、スタッドレスタイヤの『WINTER MAXX02』、そしてシンクロウェザーで、100km/hからのウエット制動テストを行い、シンクロウェザーの制動距離を100とした場合、ENASAVE EC204が106、WINTER MAXX02が126となったとのこと。つまり、シンクロウェザーはサマータイヤよりも優れた制動性能を示しているのです。

記事に関わった人々

  • 執筆

    斎藤 聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。
  • 撮影

    田中秀宣

    Hidenobu Tanaka

    写真が好きで、車が好きで、こんな仕事をやっています。
    趣味車は89年式デルタ・インテグラーレ。
  • 編集

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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