マクラーレン570Sクーペ/540Cクーペ
公開 : 2015.06.04 22:00
シャシー
1981年以降に設計/開発されたマクラーレンは、ロードカーあるいはレーシングカーに関係なく、すべてのモデルに軽量なカーボンファイバー・シャシーを採用している。
スーパー・シリーズに用いられているシャシーとよく似たモノセルIIはスポーツ・シリーズのための専用設計だ。日常的な使い勝手をさらに重視しているのが特徴であり、フロント・シルの幅をより狭くし、高さを80mm下げることで乗り降りがしやすくなっている。
シャシーそのものの重量は80kg以下であるが、高い剛性ゆえ、衝突時の安全性も向上している。開発の一部として前後のアルミ・フレーム部分も見直しが図られ、新しいカーボン構造への負荷経路をファイン・チューンしたほか、新たに採用されたアンチ・ロール・バー取付部の増加、複雑な形状を避けて軽量化を図るなどの改良が施されている。同セグメントで、カーボンファイバー技術を率先して取り入れているのは、現時点ではスポーツ・シリーズのみといっても決して言いすぎではないだろう。
カーボンファイバー製モノセルIIは同様に設計されたアルミ製シャシーより25%剛性が高く、スチール製シャシーに対してはさらに大きなマージンをもたらす。ボディ剛性の高さはハンドリング、アジリティ、乗り心地の改善にも寄与。ブレースや補強材を追加する必要がないというメリットもある。金属よりも耐久性に優れており、寸法精度が高いため組み付け面でも品質の向上が図れる。
また補修が容易というメリットもある。アルミの押出し材とキャスティング材で構成されたフロントとリアは衝撃を吸収する設計とされていることが理由だ。
ボッシュと共同開発した新しいESC(電子制御スタビリティ・コントロール)には、システムの介入を減少させるダイナミック・モードが新たに設定されており、限界時のコントロール性やドリフトのしやすさが向上している。
ESC専用のスイッチを新たに設けた結果、ハンドリング・コントロール・ダイヤルの設定に関係なくESCを制御できるようにもなった。これを用いると、‘スポーツ’ もしくは ‘トラック’ のハンドリング・モードで ‘フル’、‘ダイナミック’ のほか、ESCをオフにすることもできる。改良されたポンプとデュアル・バルブ・システムの恩恵により、ESCシステムの洗練性は高まり、緻密な動作が可能になった。
新開発のサスペンション・システムは独立して作動するアダプティブ・ダンパー、そしてスーパー・シリーズの特色でもあるアンチ・ロールバーを前後に装着するとともに、セットアップが施されたフォーミュラ1方式のダブル・ウィッシュボーンを備える。
マクラーレンではすでにお馴染みとなった、ノーマル/スポーツ/トラックからなるハンドリング・セッティングにより、バンプ側とリバウンド側の設定をコントロールできるもので、従来のマクラーレンとは異なる独自のダンパー・セッティングが施される。
‘ノーマル’ では一体感を損なわずに柔らかめの乗り心地であるのに対し、‘スポーツ’ あるいは ‘トラック’ では必要に応じてサーキット走行に照準を合わせたセッティングとなる。
以下はチーフ・テスト・ドライバーであるクリス・グッドウィンの言葉である。
「スポーツカーではグリップ・バランス、タイヤのレスポンス、ステアリングのレスポンスがより重要となります。スポーツ・シリーズに装着されたタイヤは、スーパー・シリーズもしくはアルティメット・シリーズよりも細くなっていますが、それでも物理的に高いパフォーマンスを示すとともに、主観的なフィーリングも重視して開発されました。主観的なパフォーマンスを計測するのは容易ではありませんが、コーナーを駆け抜けたときにドライバーが思い浮かべる笑顔によって判断すれば間違いありません。私たちはサスペンション・ジオメトリーやセットアップの設定により、クルマ自らがコーナーを曲がりたくなるようなバランスを作り出しました。ドライバーはコーナーのアペックスを見るだけで、あとはクルマが自然とそこへ吸い込まれていくような感覚を味わえるはずです」