アストン マーティンの歴史をめぐる旅:DB6からDBXまで(後編)
公開 : 2017.04.23 12:00
DB7からDB9へ
黒い2005年式で、5万kmを走行したこれもオーナーカーだ。持ち主はかつて空軍に籍を置き、今は障害者スポーツ大会の運営や家の修繕を手掛ける傍ら、AMOCのコンクールで審査員を務める人物だ。
そういうオーナーのクルマを形容するときは気を遣う。「パーフェクト」では十分ではないのだ。この個体はコンクールでは入賞の常連で、他のクルマにも機会を与えるべく、敢えて出品を見送ることもあるというレベルなのだから。
とはいえ、オーナーはこのクルマを日頃からハードに使っている。エンジンを掛けさせてもらうと、自然吸気V12の始動は良好で、グレートなエンジン音を発し始めたのがまざまざと思い出される。
こうしたクルマを運転する際には、しみひとつない内装を汚したり、前走車に近付きすぎて跳び石を喰らったりしないように注意するものだが、それでも今回のクルマたちでのドライブは至福の時間だった。
まるで新車かと思うようなコンディションで、生産されてから経た年月を忘れてしまいそうなのだ。このGTとしての万能性と、安心感と長距離での快適性に満ちた低いドライビング・ポジションを忘れないためにも、年に1〜2度は乗せてもらいたいものである。
ブロクスハムからゲイドンへは、DB9のようなクルマにとっては目と鼻の先みたいなものなので、束の間ペースを上げ、郊外の道を楽しんだ。
ここは英国特有のくぼみだらけの細い道ではない。まさにこういう道で、アストン マーティンは育ったのだから、進化を味わうにはもってこいだ。クルマの母国を走る際の、それこそが恩恵である。
程なくして、われわれはゲイドン本社のゲートをくぐり、黒光りするDB9を、その後継車の隣に停めた。ウェールズへ向かう、次のセクションの相棒となるクルマの横に。