【レーサー目線だから】マクラーレン720Sスパイダー 井出有治が感じた“贅沢さ”、走りの秘密
公開 : 2021.02.19 07:00
公道でも扱いやすいキャラクターの秘密
720Sの研ぎ澄まされたハイパフォーマンスと、スパイダーというオープンスポーツの開放感は、矛盾するようだが、じつは非日常という接点によって、表裏一体で繋がっているところがある。
「カーボンセラミックのブレーキこそ、始動直後は温まるまで注意が要りますが、その後は市街地でも扱いやすかったですよ」
コンソール脇のダイヤルで、ハンドリングとパワーを別々に設定できるため、ごく低速域でも色々と設定を変えてみたとか。
「『コンフォート』でなく『スポーツ』でも、低回転域はアクセル開度に対するパワーの出方がごくごくマイルド。そのおかげで、街乗りで加減速だけで流れているような状況でも唐突さがなく、サーキット経験のない人が走らせても怖くないと思います」
とはいえ、4LのV8ツインターボが秘める720ps/78.5kg-mの片鱗は、公道でも感じられるものだろうか?
「5000rpm辺りからはっきり伸びますね。それでも(回転数の)上まで使っていませんが、エグゾースト音を聞く限り、本来のトルクとパワーはまだたっぷり残っています。エンジンの使い切れなさというより、低いギアでもかなりのハイギアード設定という印象。トラックではさすがに、パワーのつき方が鋭くなるんでしょうね」
今回はもちろん一般道での試乗なので、アクセルを踏み込める場面はほとんどなかったはずだが、それでも井出が限られた条件の短い試乗の中で、720Sスパイダーの本質を探ろうと、あれこれ試していたことにプロドライバーの貪欲さがうかがえた。
「もちろん公道ですから、スポーツモードから先はコンフォートより低めのギアを選ぶことは確かめられましたが、それぞれのトルクやパワーの出方の違いは、限られた速度域なので何ともいえないです。でも足まわりやハンドリングでは、明確な違いが感じられました」
コンフォートではストロークしてから舵が入っていくのに対し、スポーツではそのストロークが短くなる。トラックではさらに、間髪を入れずノーズが切れ込んでいくというロジックだ。
「首都高の速度域でも、違いがちゃんと段階的に分かるぐらい。轍を越える時に力を入れて保持しないと、どの方向に飛んでいくかといった神経質さがないのも、好ましい感触です。いずれのモードも少ない舵角で切れる点は共通で、どちらかといえばクイック過ぎない、かといってまったく乗用車的ではないステアリングフィールですね」