【これぞ妙味】ジャガーFタイプV6モデル「P380」 試乗でわかった「バランス感」
公開 : 2021.02.26 19:50
対話のあるドライバビリティと最後のV6
V6エンジンの始動時から、全モデルに装備されるアクティブスポーツエグゾーストシステムの存在は、元気のよいブリッピングとして感じられる。
アイドリング音はV8ほどドロドロした重低音ではないが、直4よりドスの効いた獰猛さはある。
日常的な速度で静粛性は高いわけではないが、漫画の効果音なら細めのVRRR……といった風で、気に障る音質ではない。
アクセルの初期踏み込みに対しピックアップはスムーズかつマイルドで、20インチながら段差や継ぎ目越えではトトッと軽快にいなすライド感で、市街地走行でも苦痛は一切ない。
ところが踏み込むと、V6スーパーチャージドのフィールはなかなかドラマチックだ。
3000rpmを過ぎた辺りから咆哮のトーンが明らかに高まり、AWDとはいえ後輪側を軽く沈めた加速姿勢にFR的フィールを見い出すことも可能だ。
Fタイプが本領を見せ始めるのは、やはりワインディング。ターンインでの軽く正確な身のこなしと、加速に移って地面を蹴り出す刹那のトラクション・レスポンスの素早さに、シャシーの俊敏さが表れてくる。
V8ほどノーズヘビーでもなく、直4よりトルクもパワーも分厚いゆえのダッシュ力。加えて、20インチゆえグリップレベルも高いが、重心高も僅かに上がっているためか、ロールや適度なストローク感もある。
そんな絶妙なバランス感だ。内輪ブレーキによるタイトコーナーでのトルクベクタリングや、AWDシステムとも連動するアクティブディファレンシャルコントロールも、効いているのかもしれないが、介入がわからないほど自然だった。
逆にいえば、こうした制御デバイスをアドホックやトッピング扱いで済ませられるところが、V6モデルの基本バランスの高さといえる。
1790kgの車両重量は確かに軽くはないが、操舵に対する前車軸周りの剛性感が高く、パワーの力強い伸びとAWDならではの安心感は、公道で楽しむスポーツカーとして、代え難い。
加えてこのパワーユニットは、ジャガー製のV6エンジンとして有終の美でもある。手のうちに収めやすいサイズ感とパフォーマンスを備えつつ、未来のクラシックのような1台、それがP380なのだ。