見た目の違い、控えめ されど大きな走りの違い スピードとV8 ベントレー・コンチネンタルGT 比較試乗
公開 : 2022.06.03 11:55
W12 気品と獰猛さを併せ持つ走り
モードは、「B」が一番だ。これは単なるノーマルモードではなく、ベントレーらしく走るために最適なセッティングが導き出される「ベントレー・モード」である。
たおやかだが隙のない、エアサスのレート設定。この乗り味にステアリングアシストやエンジンマネージメントといった全ての制御が、トーン&マナーをぴたりと合わせてくる。
ロールスピードが早すぎるとか、踏ん張りが足りないと感じたならばそれは、追い込みすぎだ。
このモードで全ての挙動が整う走りに徹し、速さの中にエレガンスを感じてこそ、真の「ベントレー・スピード」だと言える。
しかしながら、そんな真昼のポエムを放った矢先に、筆者は強烈なカウンターパンチを食らった。なぜなら「スポーツ」モードに転じた制御の一体感が、あまりに見事だったからである。
引き締められたサスペンションは、小さなステアリングのクイックなレシオにも動じることなく、車体の動きを確実に抑えてくれる。
切り込めばじわりと踏ん張り、そのロールスピードをゆっくりとコントロールしてくれる。
切り返しではダンパーの追従不足やバンプラバーの柔らかさを感じさせる場面もあるが、通常のコーナーアプローチではあまりのターンインの上質さにあきれかえる。
そこには当然狭角V型6気筒をさらにV型配置したW12エンジンの慣性の小ささや、アクティブ・スタビライザーのロール制御、リア・ステアによる回転半径の小ささ等が効果を発揮しているはず。
適宜トラクションと旋回性能を調整する後輪駆動ベースの4WDと、電子制御デフの組み合わせが、鋭い旋回とアクセルオンからの安定性を両立させているに違いない。
しかしそれを乗り手に悟らせるほど、ベントレーの制御は雑じゃない。
たとえばフライングスパー譲りの4WSは、低速域で後輪を逆位相方向に制御することで旋回性を高め(最大4.2°)、高速域ではこれを同位相方向へ制御(最大1.5°)することで安定性を獲得する技術だが、少なくともオープンロードでは後輪の動きを感じることなどできはなしない。
内輪の空転を抑えるだけでなく、必要とあらば外輪へさらなるトルクを配分する電子制御LSDの作動も同様で、その実力を余すところなく体感したいなら、ワインディングでは狭すぎる。
かといってFIA-GT3マシンでもない限り、コンチネンタルGTスピードで貪欲にサーキットランを楽しむオーナーは、それほどいないだろう。ニュルブルクリンクを走らせるのは別として!
それでもベントレーがこのスピードに最新の制御技術を投じるのは、それがトップモデルとしての嗜み(たしなみ)だからだ。それはスクリューバックの内側に超高性能なムーブメントをしまい込む機械式時計の所作とも似ている(シースルーバックもあるけれど)
また極めて黒子的にその制御を働かせることも、流儀である。つまりドライバーがやるべきことは、ただひたすらに曲がりやすく、安定したコーナリングを、屈託なく楽しむことなのだ。
アクセルを踏み込めば、車内には濃厚なメカニカルサウンドと「シューッ」という過給音だけが遠鳴りに響く。それまでのすまし顔が嘘のように、走りが分厚く、肉感的になる。
通常スポーツモードは、過激さを味わう「お楽しみモード」であることが多い。しかしスピードのスポーツモードは、紛れもなく走りそのものを楽しむためにある。
その豹変ぶり、いや気品と獰猛さを併せ持つ走りは、英国の伝統を最新の形で受け継ぐ、まさに貴族の乗り物と呼ぶに相応しい出来映えだった。