デイビッド・ブラウン・スピードバックGT

公開 : 2014.08.15 23:50  更新 : 2015.06.17 15:58

■どんなクルマ?

デイビッド・ブラウン。それは一人の男の名前である。1904年から1993年まで生きた、かの男は有名なトラクター制作会社を経営した。それだけではない。1947年には、アストン・マーティンのクルマづくりを手助けするために会社を購入し、以降世界的に名を馳せることとなったモデルに自らのイニシャルをつけた。このクルマはすぐに売り切れ御免となり、1970年にアストンを襲った経済危機から救った。あるいはDBから始まるモデル・ネームに聞き覚えがない人のほうが少ないかもしれない。

ここ数ヶ月、同じ名前の自動車メーカーが注目を集めている。デイビッド・ブラウン。この名前は、先に記した男とはじつは全く関係ない。ヨークシャー州出身の実業家、というところまでは同じなのだけれど、こちらのDBはラグジュアリーなGTカーを制作することに夢中なのだ。偶然か必然か筆者には分かりかねるが、このGTカーのデザイン・モチーフもまたアストン・マーティンだ。

おおよそ1億2000万円以下で、クラシカルなルックスとトップクラスの性能を発揮するクルマが欲しい一心で、実際に制作してしまったブラウン氏。アストン・マーティンDB5のデザインをふんだんに取り込みながら、ボディの内側はジャガーの最もパワフルなエンジンをはじめ、かなり先進的になっている。

両ブラウン氏のバックグラウンドやビジネスのキャリアは似ているところが多いのだが、違う点といえば、’現代の’ ブラウン氏はアストン・マーティンと公式な関係がないという点だ。

数年前、60年代のクルマを愛するブラウンは、彼に言われば ”当時もっともアイコニックなクルマだった” アストン・マーティンDB5を購入し、ブレーキの類から防音、パワーアップに至るまで思うように手を加えた。”もちろんこのクルマは大好きです、だけれどもやはり古いクルマは古いクルマなのです” とブラウン氏。”そこで私は、古いクルマのルックスをもった先進的なクルマをつくろうと思い立ったのです”

4月のモナコにてデビューしたデイビッド・ブラウン・スピードバックGTには、ジャガーXKRのシャシーとエンジン、その他のメカニカルなパーツを流用していたのだが、細部までていねいに調整しなおされていた。

インテリアは、ウッドやレザー、金属類をたっぷりとあしらい、エクステリアはオリジナルよりも入念にデザインしなおされている(リアバンパー周辺を参照)。

なかでもかなりユニークなのは、リア・トランクからせり出してくるベンチ。2人が腰掛けることができ、SUVのオーナーでも満足できる仕立てとなる。

内外装ともに、ランドローバーをリタイアしたばかりのデザイナー、アレン・モバリ氏が担当。デイビッド・ブラウン社に移籍した理由を聞くと、”そろそろDB5が息づいた、あの時代を学んでみたいと思ったのです” とのこと。”スピードバックは、古きよきソウルをもった現代のグランド・ツーリングなのです” と付け加えた。

■どんな感じ?

第一にエンジンのできは良く、第二にジャガーもスピードバックの制作に好意的。第三にシャシーとボディの相性が良いなどとメリットは多いのだけれど、’復刻車’ の例に漏れず、”中身はただのジャガーじゃないか” と批判を浴びせられているのは事実。

今回は、最近ではツール・ド・フランスでも使われたコースとしても記憶に新しい、ヨークシャー州の道を試乗ルートとした。

操舵はもはや芸術の域、極めてフラットな乗り心地、いかなる速度でもニュートラルな姿勢。実際の乗り味はジャガーの良い所そのものだ。力量あるブレーキや、ドライバーを中心に旋回していく感覚もきちんと残されている。

XKRよりも乗り心地は柔らかく、ロードノイズもわずかに軽減されている。ハイ・プロファイル・タイヤを履いていることが影響しているのだろう。

小さな自動車メーカーが、オリジナルのシャシーやパワートレインを自前で用意するにはかなりの設備投資が必要になってくることを考えれば、ジャガーから流用する方が賢い。このクルマの出来栄えとともにそう思った。

510psを発生する、’おなじみの’ 5.0ℓV8は低速からの回転上昇も嫋やかだし、アクセルを踏み込めば力強いサウンドを響かせる。0-100km/h加速は4.6秒、最高速度はリミッター作動の250km/hということを考えれば、運動能力にも問題はない。

■「買い」か?

さまざまなウェブ上のフォーラムで湧き上がる批判は一旦置いておいて、ヨークシャー州でのテストでは、筆者は感動させられっぱなしだった。

オールドカーの見た目ながら、最新の性能をもったクルマがあればいいのにと、きっと多くの人が一度は思ったことがあるだろう。しかし、実現するには手仕事ならではの作業時間が掛かり、なおかつ価格も相応に高くなる。

したがってブラウン氏は、生産規模を大きくすることによって、それらの問題を解決しようとしている。”期待をかけてくださるユーザーのためにも、工業都市のコヴェントリーでさらに8人のビルダーを雇用済みです” とブラウン氏。

生産システムも確立されつつあり、プロトタイプだって机上の空論だけで終わらなかった事に、氏は誇りに似た感情を抱いている。

今のところ1台のプロトタイプしか用意されていないけれど、協力企業の助けもあって100台近くの生産が実現される可能性が出てきた。もちろんジャガーからの供給量との兼ね合いもあるけれど、”必ずやビジネスを成功させ、スピードバックが多くのカスタマーの手元に渡ることを約束します” と固い決意をみせてくれた。

(スティーブ・クロプリー)

デイビッド・ブラウン・スピードバックGT

価格 £594,000(1億150万円)
最高速度 250km/h
0-100km/h加速 4.6秒
燃費 8.1km/ℓ
CO2排出量 292g/km
乾燥重量 1800kg
エンジン V型8気筒5000ccスーパーチャージャー
最高出力 510ps/6000rpm
最大トルク 57.5kg-m/2500-5500rpm
ギアボックス 6速オートマティック

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