すべてが常識の範疇を越えていたスーパーカー、マクラーレンF1

公開 : 2017.04.03 18:00  更新 : 2017.05.29 19:10

マクラーレンの驚くようなハイパーモデルF1は、一切の装飾を廃し、ひたむきにただスピードのみ追求したクルマです。F1がなお比類のないクルマだと言われる理由についてジェームズ・エリオットが探ります。(姉妹サイト、CLASSIC & SPORTSCARより転載)

すべての常識をく覆す存在

これまでの常識をあてはめても、よく理解できないために、考え直す必要があることがある。どのようなドライビング・エクスペリエンスを経験してきたか、またクルマについてどのような物差しを持っているかということにかかわらず、マクラーレンF1は、その全てを覆す存在だ。このクルマには何一つ普通な点がない。それが、依然としてこれほどまでにマクラーレンF1が謎に包まれている理由かもしれない。しかし、周りと違うからといって、悪いと決めつけるのは間違っている。そう、あまりにも間違っているのだ。

この特集で取り上げているF1以外のスーパーカー達が、いずれも、なんらかの意味で、それまでの常識を塗り替えたクルマであるのに対して、F1の存在は、流れを何一つ変えなかった。それは、追随する者がいなかったからである。しかし、利益を目的とせず、天才がスーパーカーを一から自由に構想した場合に、自動車工学がどこまでのことができるかをまざまざと示すベンチマークないしは灯台のような存在であるのは確かだ。

実にシンプルなデザインのテールライト。


レーシング・マシンの設計にとりつかれたゴードン・マーレーの頭からこれ以外の何を期待しようというのか。「ファンカー」ブラバムBT46を構想した男が、ロン・デニスを説得した。そして、マクラーレンのボスは、仰天するほど巧妙な設計により386km/h超えを現実にする手助けをすることにした。

生産台数僅か100台の希少モデル

1992年(そう、実は結構前のことなのである)に発表された希少なF1は、その6年間の生産期間中に意図して100台強しか生産されていないため、今では需要が供給をはるかに上回っている。最初の10年にほとんど動かなかった価格が、近年、数百万ドルに、少なくとも2年間で2倍へと爆発的に上昇した。

こうしたクルマについて仰天させられる点は、これは良いことなのだが、一部のオーナーたちが、こうしたクルマを実際に運転していることである。トーマス・バッチャーとローワン・アトキンソンの英雄的行為(C&SC 2013年3月号)は、記事に詳しいものの、われわれがテストした日も、オーナーが自ら運転して来たのはF1ただ1台だった。彼は、失った時間を取り返そうとしているのかもしれない。マイケル・アンドレッティが所有していたこのF1は、現在のオーナーの1年間にわたる所有期間のかなりの部分をマクラーレンの本社での修理に費やしていた。

F1を買い、ドライブするということが、金のかかる体験だと知っても驚く人はおそらくいないのではないか。特に、F1を、買うまでドライブしたことがなかったこのクルマのオーナーの場合、なんと20%の輸入関税も支払わなければならなかったからである。

アロイホイールの奥にベンチレーテッドディスクが見える。


彼は、こう語る。「パガーニ・ゾンダを所有していたのですが、若干非生産的な行為であることに気づいてしまいました。パガーニは、F1を買う経済的余裕がない人が買うクルマなのです。F1は自分がなくしては生きていけないことをますます痛感させるクルマであったことも問題でした」

維持費はかかるがそれだけの価値がある

「私はこれで1600kmほど走りました。最初は涙が出るほどの費用が掛かりましたが、F1を所有する余裕があるなら、それを維持するだけの資力も備えているはずでしょう。また、マクラーレンは、実に徹底した完璧主義であるため、それだけの費用がかかってもいいだけの価値はあったと思います。つまり、これは、地元のメカニックの手に気軽に委ねられるクルマではないということです。最高の扱いを受けるに値し、それには安くは済ませられないのです」

これは、そもそもマクラーレンを購入できる財力があれば、問題ではないという意味ではない。オイル交換だけで5000ポンド(約92万円)かかる以上、F1をドライブするためには年間に2万ポンド(約370万円)近い予算が必要になるということだ。

それでも、F1を所有することができる者がなぜそうするのか。それを知るのに天才である必要はない。F1は先進的なカーボンファイバーモノコックボディのおかげで、当時としては軽量で、1150kgを下回っていた。シートスライド用のモーターの重量を節約するため、シートの移動でさえ手動で行う。使われている材料は、元素の周期表を見ているようであり、ケブラー、チタン、マグネシウム、そして金で編んだ宇宙時代の魔術のようだ。

おすすめ記事

 
最新試乗記

人気記事