今あらためて試乗 ジャガー・ヴァンデンプラスH.E.(XJ6サルーン) 時代こえる英国テイスト

公開 : 2019.12.01 05:50  更新 : 2021.10.09 22:43

いまの視点でジャガー・ヴァンデンプラスH.E.(XJ6サルーン)に乗ると、年式こそ1984年ですが、60年代の英国ヒストリックカーのものだといいます。1台で全ての用事をこなしている理由にも納得のよう。

雰囲気はイングリッシュパブの如し

photo:Koichi Shinohara(篠原晃一)

待ち合わせ場所に白いXJサルーンが颯爽と現れる。

速度はゆったりとしたものだったが、現代のサルーンとは比べ物にならない全高の低さと、シャープなスタイリングによって「颯爽と」という表現が良く似合うのだ。

現行モデルのジャガーXJより一回り以上小さい初代XJサルーン。寸法的には現代ジャガー・サルーンの末っ子であるXEと同等のサイズ感である。低いボンネットの下にはかなり大きめの5.3L V12が搭載されている。
現行モデルのジャガーXJより一回り以上小さい初代XJサルーン。寸法的には現代ジャガー・サルーンの末っ子であるXEと同等のサイズ感である。低いボンネットの下にはかなり大きめの5.3L V12が搭載されている。

1984年式のジャガーXJ12ヴァンデン・プラH.E.。V12エンジンを搭載したXJサルーンの高級版であり、末尾のH.E.のアルファベットは、80年代になって燃焼効率が高められたV12エンジンに付与されたHigh Efficiency(高効率)の頭文字である。

このジャガーXJ12ヴァンデン・プラに20年乗っているというオーナーの宮廣好一さんは、このクルマの前にもジャガーXJ6に乗っていたほどの生粋のジャガー党。

古い英国車を愛するオーナーは、ファッションは身の回りのモノも含めて英国好きであることが多いが、宮廣さんもその例に漏れない。

チューダーホワイトと言われる陶器のような白いボディに上品なメッキパーツが散りばめられたエクステリアも見事だが、メッキで縁取られた窓から覗く使い込まれたマルベリー(深い赤)の革内装が、まるでイングリッシュパブのような雰囲気を醸し出している。

重量感のあるドアを開け、赤いランプで照らされた室内に潜り込む。

室内はトヨタ86より狭い?

絞り込まれたような外見からもわかる通り、XJサルーンの室内空間は最低限の広さしかない。

外寸で際立っているのは全高の低さと全幅の狭さで、これはトヨタ86より全高が2cm高いだけ、逆に全幅は2cm狭いのだから、室内が狭く感じられるのは当然である。

窓の面積が小さく、暗い色が多用されているため英国濃度が高く感じられる室内。シフトレバーの両脇にアシュトレー(灰皿)が用意されるあたりは時代を良く現わしている。使い込まれた赤いレザーが英国車党の心をくすぐる。
窓の面積が小さく、暗い色が多用されているため英国濃度が高く感じられる室内。シフトレバーの両脇にアシュトレー(灰皿)が用意されるあたりは時代を良く現わしている。使い込まれた赤いレザーが英国車党の心をくすぐる。

だがこの上下左右にほどよくタイトで、しかし前後方向にゆったりとしたドライビングスペースが、ジャガーのスポーティな乗り味と実によくマッチしている。

細身のステアリングホイール、メッキとエボナイト(ゴム由来のプラスティック)を組み合わせた瀟洒なシフトレバー、そして室内全体に広がるウォルナットパネルとレザーが織りなす独特の様式美。

今回試乗させていただいた個体は年式こそ1984年だが、それでも目に映るもの、触れるものの質感は全て、80~90年代のネオヒストリックではなく60年代の英国ヒストリックカーのものだ。

少し動きが硬めのシフトレバーを引き込むとガツンと駆動が伝わり、ヒタヒタと走り出す。サスペンションは少しフワフワとして柔らかく、乗り心地はすこぶるいい。

一方V12エンジンは、右足をスロットルに乗せておくだけで、いつの間にか加速していく感じ。これぞ英国の高級サルーンと言った趣がある。

記事に関わった人々

  • 執筆

    吉田拓生

    Takuo Yoshida

    1972年生まれ。編集部員を経てモータリングライターとして独立。新旧あらゆるクルマの評価が得意。MGBとMGミジェット(レーシング)が趣味車。フィアット・パンダ4x4/メルセデスBクラスがアシグルマ。森に棲み、畑を耕し蜜蜂の世話をし、薪を割るカントリーライフの実践者でもあるため、農道のポルシェ(スバル・サンバー・トラック)を溺愛。

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