【夢に描いた2ドアクーペを現実に】シトロエンDSクーペ・グラン・パレ 前編

公開 : 2020.05.02 07:20  更新 : 2021.03.05 21:42

カースタイリストのゴドフロイと、コーチビルダーのビアーが目指したのは、製造されることのなかったシトロエンDSの2ドアクーペ。1万時間以上をかけて完成した端正なボディには、思わず見惚れてしまいます。

開発当時の夢を叶えたデザイナー

text:Jon Pressnell(ジョン・プレスネル)
photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
誰もがそれぞれ、大きさは違っても、自分なりの夢を持っているはず。もしこんなクルマがあったなら、と夢想している読者もいるだろう。

計画には上がりながらも、自動車メーカーとして量産できなかったクルマも少なくない。エンジニアやデザイナーの夢に終わったプロジェクトたち。

シトロエンDSクーペ・グラン・パレ
シトロエンDSクーペ・グラン・パレ

かなり数は少ないながらも、その夢を現実するための熱い魂と才能を備え、必要な資金や人材を準備できる人がいる。そんな人物の1人が、ノルマンディーを拠点に活動するジェラール・ゴドフロイだ。

彼が生み出したのは、ピラーレスの美しいシトロエンDS 2ドアクーペ、グラン・パレ。華麗なボディラインに見惚れるだけでなく、まるでシトロエンの生産ラインから出てきたかのように、完成度も高い。

写真を見ていただければ分かる通り、このDSグラン・パレを手掛けたのは、アマチュア・レベルの人間ではない。ジェラール・ゴドフロイ自身も、業界では名の通った自動車デザイナー。クルマ以外の工業製品も数多く生み出している。

若かりしゴドフロイは社会人になると、2年半をプジョーで過ごし、プジョー205の初期デザインに関与。その後フランスのコーチビルダー、ユーリエ社に入り、5年ほど経験を積んだ。

アルピーヌV6のデザインを仕上げる責任者となったほか、シトロエン・ビザIIのフェイスリフトを担当。コンパクト・モデルの延命に貢献している。

同僚との能力を合わせて独創的に

1983年になると、ゴドフロイはベンチュリー社へ転職。11年間在籍した。ほかにも、水陸両用レジャービークルなどのプロジェクトにも関わっている。

彼が関わった工業製品の中で今も広く目にするものの代表といえば、フランス・マニトー社の建設用機械。赤く塗られたクレーンやフォークリフトなど、旅行先で目にした読者もいるのではないだろうか。

シトロエンDSクーペ・グラン・パレ
シトロエンDSクーペ・グラン・パレ

DSグラン・パレを生み出すきっかけはシンプルだったと、ゴドフロイは振り返る。長年のコーチビルダーとして同僚でもあるクリストフ・ビアーが、DSのサルーンを、シャプロン社の工場で作られていたカブリオレのレプリカにしたいと考えていたからだった。

「わたしは、お互いの能力を合わせれば、もっと独創的なクルマを作れると話しました。DSをカブリオレに改造する人は少なくないので、クーペにしようと、彼を説得したんです」 と話すゴドフロイ。

「シトロエンはDSのクーペを正式に作ることはありませんでした。シャプロン社のハードトップとは異なるものを生み出したいと思いました。DSのデザイナーだった、フラミニオ・ベルトーニのアイデアに近い、ほかとは違う何かをしたかったのです」

「クーペなら、オリジナルの良さを尊重しながら、もっと個性を出せると考えました。大きくカーブを描くリアウインドウや、丸く柔らかなリアエンドなど」

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