ブガッティ・シロン 量産車最速記録 490.485km/h 初めて300mphを突破
公開 : 2019.09.03 07:50
ブガッティ・シロンが量産車で初めて300mph(約482.8km/h)の壁を破り、490.485km/hという最速記録を樹立しました。ただし現行の市販モデルとまったく同じではなく、エアロダイナミクスに改良が加えられ、1600ps仕様のエンジンを搭載していたようです。
リミッターを解除した実力
ブガッティはシロンを発売するとき、420km/hで作動するスピード・リミッターを搭載することに決めた。そのため、リミッターを解除すれば一体どれほどの性能を発揮するのかという疑問が残されていた。今、同社はその疑問に対する途方もない答えを明らかにした。わずかにモディファイを施したシロンが、量産車として初めて300mph(約482.8km/h)の壁を破り、最速記録を更新したのだ。
ル・マン優勝経験もあるベテラン英国人ドライバーのアンディ・ウォレスが運転するシロンは、ドイツのエーラ=レッシエンにあるVWグループの秘密のテストコースで、304.773mph(約490.485km/h)という速度を記録した。ウォレスは現在、ブガッティのオフィシャル・テストドライバーを務めている。
このシロンは、ブガッティによれば「市販車に近い仕様」であるという。安全装備が加えられたほか、エアロダイナミクスにも変更が施され、7速のギア比は高められていた。8.0L W16クアドターボ・エンジンも、標準モデルの1500psではなく1600psバージョンが搭載されていた。おそらくこのドライブトレインは、速度記録を記念してこれから発表される高性能モデルに使われるのではないだろうか。
タイヤはX線検査で選別
300mphを超えるためには、この速度に耐えられるように特別に開発されたミシュランのパイロットカップ2タイヤが不可欠だった。なにしろ最速記録を更新した時、タイヤは1分間に4100回転もしている計算になるのだ。
各タイヤは事前にX線で検査され、放射線状のバンドが互いに接触しているものがない個体が選定された。ノーマルなシロンの速度でさえ問題にならない程だが、熱を発生する可能性があるからだ。
ウォレスはまた、非常に速い速度で回転するホイールが大きなジャイロ効果を発生し、超高速で問題となることも認めた。「200mphではほとんど感じませんが、300mphを超えると非常に大きくなります」と、走行後にウォレスはAUTOCARに語った。
「それは主に前輪で感じられました。すなわちステアリングです。コマのように、一度動き始めるとそのまま動き続けようとするのです」
目標はニュートラル・ダウンフォース
今回の速度記録挑戦のために、エアロダイナミクスの設計を手掛けたのは、イタリアのダラーラだ。このモータースポーツ専門企業は、シロンのボディを製造している。しかし、クルマが実際にサーキットを走る前に、風洞トンネルでシミュレーション・テストをすることは不可能だった。速度があまりに速すぎるからだ。
目標はニュートラル・ダウンフォースだった。「正味ゼロのダウンフォースをフロントとリアに与えるということは、簡単に聞こえるかもしれません。クルマが静止しているとき、車体を路面に押し付ける車両重量は充分以上に重いからです」
「しかし、それは空気の圧力による効果を計算に入れていません。ボディの表面に受ける2000kg近い圧力は、車体を地面からもぎ取ろうとします。また同時に、別の2000kg近い圧力が車体の下で地面から引き剥がそうとします。2つの圧力を合わせるとざっと4トンほどになります。それでもクルマが充分安全に、間違いなくその速度で走れるようにしなければなりません」
高速で走っている際にウォレスは、8.8kmにおよぶエーラ=レッシエンの長い直線で最近舗装し直された区間が、クルマの安定を失わせることを発見した。「普通のクルマなら、辛うじて気付く程度でしょう。しかし、この超高速域だと非常に大きく感じられるのです」と彼は言った。この路面の境目は、エンジニア・チームに「ザ・ジャンプ」として知られることになる。