FCAとPSAの対等合併 「地中海同盟」何をもたらす? 「弱者連合」を否定できる3つのワケ
公開 : 2019.11.01 12:06 更新 : 2021.10.09 23:32
FCAとPSAの対等合併が、取り沙汰されています。「地中海同盟」ともいえるこの合併。なかには「弱者連合」などという人もいますが、実は違うのです。われわれクルマ好きにもプラスになるような、3つのメリットがあります。
FCAとPSA 資本上は50/50の対等合併
数か月前の日産ルノーとの時のように、フィアット・クライスラー・オートモビルズ(以下FCA)にしてみれば、コケる可能性もなくはなかった。
もう一方のPSAグループにしても、2009年の三菱自動車との「合併未遂」があった。
だが10月31日、欧州時間の早朝に、フランスとイタリアの自動車業界を代表する両者が、資本上は50/50の対等合併を将来的な視野に、統合計画の合意に至ったと、公式発表した。
まだトップ同士が意志を確認し合った段階で、統合にまつわる細かい条件について話し合うのはこれからの状況だからだ。
これまでの破談の経緯から、弱者連合と揶揄する声は早速、少なくない。販売台数規模で見れば、両グループ合わせて870万台程度で、グローバル市場でトップ3を占めるVWグループ、トヨタグループ、日産ルノーグループはすべて1000万台クラブだし、今まで4位だったGMも約840万台ある。
その上、電化技術の開発に遅れているとか、技術開発費に回せるキャッシュフローが少ない、そんな根拠だ。
じつは欧州に展開する自動車メーカーのCO2排出量スコアを見ると、PSAグループとFCAは概して思われているほど悪くない。
トヨタがトップだが、プジョーとシトロエンはそれに続き、ルノーとスズキを挟んでフィアットが6位に続く。VWに至っては11位、マツダは20位の有り様だ。
これは当然、来たるべきCO2排出ペナルティによって利益が削られる可能性に直結している。
来年早々にPSAグループはいわゆる欧州Cセグメント、自社でいうプジョー308や競合相手でいうVWゴルフから上のクラスではPHEVを、さらに下のフィアット・プントやプジョー208が相当する欧州BセグメントではEVを市販する。
特定の自治体や企業ユーザーによる社会実験以外の枠組みで、普及価格帯のボリュームゾーンでの電化モデル市販は、欧州では相当に野心的なことだ。
技術ポートフォリオ面で、電化が遅れていたFCAはPSAのそれをアテにできるし、PSA側はFCAが電化に参画することで、技術開発や充電インフラの投資コストにスケールメリットを見い出せるし、普及拡大のスピード感も違ってくるだろう。
電化以外の部分でも、メリットがある。
「弱者連合」を一蹴できる3つのワケ
電化以外の部分でも、マセラティやアルファ・ロメオのハイエンドなエンジンや、ジープの信頼性の高い4WDといったパワートレイン関連をPSAは調達できるはずだ。
Bセグ、Aセグの小型車には両者とも強みがあるが、旧いパワートレインの廃止を加速できるだろうし、開発コストにも有利に働く。
コストを抑える大衆コンパクト車を得意としてきた点でも、PSAとFCAには共通の感覚がある。
しかも面白いことにPSAとFCAの生産工場は、ほぼかぶることなく巧みに世界中に散っている。イベリア半島はPSAがあれば、バルカン半島はFCAが、東欧はPSAがチェコにロシア、対してフィアットはポーランド。モロッコにもPSA工場がある一方で、南米ではフィアットが強い。また北米という、PSAの空白地帯にもフィアットはクライスラーを通じて工場や販売網が多数あり、アメリカに再進出を狙うPSAはそのネットワークが喉から手が出るほど欲しいはずだ。
さらにブランド・ポートフォリオ面でも相互補完的で、PSAがミドル・レンジ中心から上級移行を目指しているのに対し、アルファ・ロメオやマセラティなど確立されたブランドがFCAにはある。
何より、ひと昔前の欧州車の各国籍を代表する主力レンジ、プジョー、シトロエン、オペルやヴォグゾールにフィアットの間で、無駄な潰し合いが避けられることは何にも代えがたいはずだ。
商用車ではすでに長らく協業関係にある両者だけに、ラインナップの品種交配と再構築はわりとスムーズに進むだろう。
また今回の統合劇は、地政学的には「地中海連合」であり、アングロサクソンやジャーマン系とは異なるカルト・モデルというか「コンテンツ・ビジネスとしての自動車」を考える上でも、豊かなリソース共有となる。
そもそも、今やFCAの屋台骨となったジープ・レネゲードだって米伊のアドバンテージを持ち寄った交配種そのものだ。
過去をふり返れば、マセラティのエンジンを載せたシトロエンSMもあったが、理論的にはそんなカルト・モデルの復活計画すら思い描ける。