【シトロエン=ふわふわ】イメージの正体は 伊デザインとハイドロ技術の融合 BXを振り返る

公開 : 2019.12.14 05:50  更新 : 2021.10.09 22:41

シトロエンの乗り心地=ふわふわ。ハイドロニューマティック・サスペンション、いわゆる「ハイドロ」が理由です。仕組みに触れつつ、BXを振り返ります。構造を追うとエポックメイキングであると感じます。

時代を超越したハイドロのアシ

photo:Koichi Shinohara(篠原晃一)

風のない鏡のような湖面に静かにボートをこぎ出した瞬間の軽く滑空するような感覚。

シトロエンのハイドロニューマティック・サスペンション、いわゆる「ハイドロ」を経験したことがない人に、この驚きを的確に伝えることは難しい。

1982年のパリサロンでデビューしたシトロエンBX。初期型のスタイルは特にシンプルで、70年代を引きずっているのかヘッドレストもない。
1982年のパリサロンでデビューしたシトロエンBX。初期型のスタイルは特にシンプルで、70年代を引きずっているのかヘッドレストもない。

だがおおよそ、クルマ世界では他に似るものがない感触なのである。

近年の自動車のサスペンションは非常に複雑になっている。バネレートは当たり前のようにプログレッシブ(累進的に変化するもの)になっているし、ダンパーも様々な方式で減衰が変化する。

走行モードでCOMFORTを選べばゆったりとした乗り心地が享受できるが、その裏では走行性能全体を統括する電子制御が光の速さでうごめいているのだ。

そんな21世紀的なシステムと、シトロエンが64年前にDSで世に問うたハイドロを比べた場合、こと懐の深い乗り心地に関してはシトロエンに分がある。

複雑怪奇な現代の自動車作りのルールを考えれば、単純比較することはできないが、シトロエンの先進性に驚くほかないのも事実なのである。

金属スプリングの代わりに油圧とガス圧で車高を支えるハイドロ。

ブランドのあり方まで左右するようなこのシステムの正体を、今現在、最も手短に味わえる1台があるとすれば、それはBXではないだろうか。

デザインの血縁はスーパーカー

エンブレムがなければどこのクルマかわからない。

そんなクルマが増えている昨今だが、シトロエンに関してそんな心配はいらない。

16バルブヘッドを装備したスポーティモデルのBX GTI。平面と直線的なラインの交錯がマルチェロ・ガンディーニらしいスーパーカー的な見た目を作り出している。
16バルブヘッドを装備したスポーティモデルのBX GTI。平面と直線的なラインの交錯がマルチェロ・ガンディーニらしいスーパーカー的な見た目を作り出している。

特に定規を使って直線を組み合わせたようなBXのスタイリングには、車格や時代を超越した強い個性が宿っている。

シトロエンBXは1983年にデビューした5ドア、5人乗りのセダンである。駆動方式はシトロエンの伝統的な手法である前輪駆動で、エンジンは1.4-1.9Lの直列4気筒を横置き搭載している。

サスペンションはDS由来のハイドロが組み込まれ、停止時にはフロアが地面に擦りそうなレベルまで車高が落ちる。

80年代に入ったばかりのシトロエンは、旗艦のCXや、小型モデル(GSA/ビザ/2CV)はあったが、CからDセグメントに相当するミドルサイズのモデルがなかった。

そこで開発されたのがBXだった。

デザインを手がけたのはイタリアのカロッツェリア・ベルトーネでチーフスタイリストを務めていたマルチェロ・ガンディーニ。

彼が手掛けた代表的なモデルはランボルギーニのミウラやカウンタックランチア・ストラトス、マセラティ・カムシンといったスーパーカーが多い。

そんな知識を踏まえてBXを見ると、5ドア・ハッチでありながらス-パーカー的な素養を垣間見ることができる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    吉田拓生

    Takuo Yoshida

    1972年生まれ。編集部員を経てモータリングライターとして独立。新旧あらゆるクルマの評価が得意。MGBとMGミジェット(レーシング)が趣味車。フィアット・パンダ4x4/メルセデスBクラスがアシグルマ。森に棲み、畑を耕し蜜蜂の世話をし、薪を割るカントリーライフの実践者でもあるため、農道のポルシェ(スバル・サンバー・トラック)を溺愛。

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