【自動車シミュレーターの現在地】どこまで実車を再現? Gが重要 前編
公開 : 2019.12.27 11:20
シミュレーターの現在地を探るべく最新の答えを持つ英国企業と、その製品が実際に使われている現場を訪ねました。かつてはリアルとの違いを感じさせたシミュレーターですが、いまやGまで感じさせることで、ほとんど実車の感覚を再現できるまでになっているようです。
もくじ
不可欠な存在
実車の感覚を50%程度は再現出来ていると感じたのは、2011年当時、マクラーレンがMP4-12Cの開発に使用していたシミュレーターを体験したときのことだった。
当時のマクラーレンではシミュレーターを2基使用しており、1基はF1サーキットの再現に、もう1基はマクラーレンのロードカー開発にも使えるようセッティングが行われていた。
あの当時、多くの自動車メーカーにとってシミュレーターとは高根の花だったが、いまや車両開発には不可欠の存在であり、複数基を使用しているケースも珍しくはない。
時間とコストの削減だけでなく、シミュレーターを使えば、少なくとも望まれるレベルか、それ以上の水準にまでレースカーとロードカーの双方を仕上げることが出来る。
2011年、マクラーレンのシミュレーターを管理していたのはチーフテストドライバーのクリス・グッドウィンだったが、いまや彼はアストン マーティン・ヴァルキリーの開発で同じような役割を担っている。
マクラーレンのシミュレーターに使われていた物理ソフトは実に優秀なもので、F1マシンのシミュレーションでは、実際のサーキット走行で記録したラップとシミュレーターの誤差は1/10秒以内に収まっていた。
「シミュレーターが再現することは、実際のレースカーで起こっていることとまったく同じです」と当時グッドウィンは話している。
現実との違い
それでも、シミュレーターが再現する状況というのは、本物のマシンで感じるセンセーショナルな感覚とはまったく異なるものだった。
「一旦それぞれの動きとそこからのフィードバックの感覚を掴むことが出来ればシミュレーターに慣れてきたということです」と、グッドウィンは話していた。
つまり、シミュレーターにとってのこの8年間というのは、実際のマシンで感じる感覚との差を埋めるために費やされてきたということだろう。
シミュレーターの中にいるドライバーに対して、つねに正しい情報を伝えるための秘訣は、それが実際に起こっていることであるかのように感じさせることだ。
そして、さらなる物理学の進歩と、より進化したソフトウェアによってエンジニアが創り出したモデルをかつてないほど精巧に再現することで、最高のシミュレーターであれば、まさに実際のサーキットや路上にいるかのように感じることができる。
そして、これが問題となるのだ。
おそらく、誰もが知っているもっとも初期のシミュレーターと言えば航空機向けのものだろう。まさに1970年代後半から約20年に渡って英国で放映されていたゲームショー、クリプトンファクターの世界であり、お馴染みの丸いポッドを6本のシリンダーが支えているタイプだ。