【最新シミュレーターの現在地】どこまで実車を再現? Gが重要 後編
公開 : 2019.12.27 17:50 更新 : 2019.12.28 07:55
シミュレーターの現在地を探るべく最新の答えを持つ英国企業と、その製品が実際に使われている現場を訪ねました。かつてはリアルとの違いを感じさせたシミュレーターですが、いまやGまで感じさせることで、ほとんど実車の感覚を再現できるまでになっているようです。
アンシブル・モーション
ロータスの目と鼻の先、へセル・エンジニアリングセンターに拠点を構えるアンシブル・モーションは間違いなくさらに先を行っている。
クランフィールドと同じく、彼らも小さく限定的な動きしか再現できないものから、非常に多機能なものまで、さまざまなシミュレーターをラインナップしているが、アンシブルのいう多機能とは他とはまったく違った意味を持っている。
トップモデルのデルタシリーズでは、最大13軸もの動きが可能であり、基本的な6つ(急加速、横揺れ、ヨー、うねり、ピッチ、ロールだ)に加え、必要に応じてヘルメットに掛かる荷重なども追加することができる。さらに、こうした動きは油圧ではなくサーボモーターによって制御されている。
問題は非常に厳しい情報管理のお陰で、どういった企業がこのシミュレーターを購入しているのか誰も教えてくれないという点にある。
だが、ノースカロライナでフォードのレーシングカー開発を行っているフォード・パフォーマンスのテクニカルセンターに一歩足を踏み入れると、広大な室内にアンシブル・モーション製のシミュレーターが2基設置されているのを目にすることが出来た。
基本的にこの2基のシミュレーターはレーシングマシンの開発に使用されている。マシンのコンセプト創りから、ふたりのNASCARドライバーによるオーバルコースの走行までのすべてだ。では、誰がこのシミュレーターを作ったのだろう?
「アンシブル・モーションです」と、フォード・パフォーマンスでディレクターを務めるマーク・ラッシュブルックはあっさりと答えてくれた。
見事な再現性
この2基のシミュレーターは常にフル稼働の状態だ。「1基で十分だと思っていました」とラッシュブルックは言う。「以降も2基で十分だと思っていたのですが、エンジニアたちがつねにこの2基を使用しているので、3基目が必要だということでしょう」
ロードゴーイングモデルに関しても、このシミュレーターがレーシングマシンの開発同様の力を発揮してくれることは間違いない。だが、シミュレーターは非常に高価なのだ。
誰も具体的な金額を明かしてはくれないが、それなりのスペックのものならば、数百万ポンドは下らないに違いない。だが、プロタイプの製作を1台減らして1500万ポンドを節約できるのなら、その価値は十分にあると言えるだろう。
そして、節約できるのはプロトタイプの製作費だけではないのだ。
フォードのテストドライバーであり現役GTレーサーでもあるビリー・ジョンソンは、「ニュルブルクリンクまで1台のマシンと6人のエンジニアを派遣するには20万ドルが必要でしょう。シミュレーターを使えば、デトロイトから飛行機に乗ってここにやって来るだけで、1日のうちに6つの世界最高のサーキットを舞台に、GT500のロードカーを走らせることが出来るのです」と言う。
その再現性の高さは素晴らしい。わたしが試したことのあるシミュレーターの多くがハードの仕様は違っても、rFproのソフトウェアを採用しており、その乗り心地とハンドリングのセッティングは見事なまでに実車を再現していた。