【ベントレー製V型8気筒エンジン60周年】偉大なエンジン、歴史を振り返る 後編

公開 : 2019.12.27 16:50

ベントレーが誇るV8エンジンが60周年を迎えました。1959年登場のS2に積まれてデビューしたこのエンジンは、排気量を拡大させつつ現行ミュルザンヌまでつねにベントレーのラインナップに存在し続けてきました。この偉大なるV8の歴史を振り返ります。

不可分の関係

そして、その余裕はどんな場面でも味わうことが出来る。実際、何処へも行く必要などないくらいであり、ミュルザンヌのシートに座ってエンジンに火を入れ、軽くブリッピングをしてみれば、このクルマが真に偉大なモデルだということに直ぐに気付くはずだ。

ミュルザンヌ以上にこのエンジンに相応しいモデルなど思いつかない。まさにこのクルマとV8エンジンの関係は、911とフラットシックスのように不可分のものなのだ。

エンジンは進化したが、S2には古き良き時代の面影が残る。
エンジンは進化したが、S2には古き良き時代の面影が残る。

ハンドステッチが見事なキャビンへと乗り込み、しばしこのインテリアを創り出すのはどれほどの皮革が必要だろうと考えた後、自動車用しては最高のベントレー自社製のシートに腰を落ち着け、このクルマのパフォーマンスをどんな風に発揮させようと考えれば、V8エンジンの出番だ。

V12エンジンを積んだメルセデスAMGなども見事なレスポンスを見せるが、高回転では盛大なサウンドを響かせる。

だが、古のベントレー製V8に高回転など無縁であり、このクルマのサウンドは他とはまったく違う。このエンジンのサウンドは雷鳴であり、現代の量産エンジンというよりも、まるで戦前の蒸気機関車を思わせる。

そして、シフトダウンによってこのエンジンの見事なパフォーマンスが邪魔されることのないよう、思わず自らギアを固定していることに気付くのであり、あとは豊かなトルクに身を任せるだけだ。

ひとつの時代の終わり

最近ではそれぞれが決して評価されるような存在ではないのだから、こんなエンジンとクルマの組み合せを再現するなど簡単ではなく、客観的に高い評価を得ようとすれば、それは自らの信じるものを失う大きなリスクに直面することになる。

そして、そのどちらが重要かについては疑う余地はないだろう。

3t近い車重のなかにパフォーマンスと洗練が詰め込まれている。
3t近い車重のなかにパフォーマンスと洗練が詰め込まれている。

ミュルザンヌのモデルチェンジがいつなのか、そもそも後継モデルが登場するのかすら定かではない。それはおそらくベントレーがロールス・ロイスに自らの市場を明け渡すようマネをしたくないからであり、さらにはラゴンダの存在もあるからだろう。

だが、数年間の不在は覚悟している。新型ミュルザンヌが登場すれば、それは完全なEVモデルとしてになるはずだ。

つまり、これはミュルザンヌとその素晴らしい古のエンジンの終焉というだけでなく、ある意味、ベントレーのひとつの時代の終わりを告げるものだ。

それでも60年間、そしてその約半分もの間ミュルザンヌが存在していたというのは決して悪いものではなかった。そして、その時代をともに生きることが出来たことを誇りに思っている。

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