【未来のクラシックを探せ】VWゴルフGTI TCR 惜別の言葉に相応しい価値あるクルマ
公開 : 2020.03.19 22:50
将来のクラシックカーとなりそうなクルマを現行モデルの中から探すこの企画。今回は7代目VWゴルフの最後に登場した限定モデルに、CLASSIC&SPORTS CARの記者が試乗しました。
ツーリングカー・レース参戦記念モデル
フォルクスワーゲン・ゴルフGTIに「TCR」の名前を持つモデルがあることに、気付かないふりもできただろう。なぜならVWは、内燃エンジンを搭載するTCR用競技車両の開発から、撤退しようとしているところだからだ。
これは良いタイミングだと言えるだろう。
TCRは2015年、世界ツーリングカー選手権に替わり、より低コストで市販モデルに近い車両を使うレース・シリーズとして始まった。
どこかで聞いた話だ。その世界ツーリングカー選手権が始まったときも、同じようなことが言われていたからだ。
多くの自動車メーカーが、市販車の宣伝を目的に、このレース・シリーズに関わることになった。VWもその1つだ。これらのメーカーはコストを犠牲にして、なるべく多くのプライベート・チームに競技車両を販売しようとし、さらにメーカーのレース部門によるサポートも提供してきた。
最高出力は290ps
VWには、これまでツーリングカー・レースに参戦した歴史がほとんどない。パサートが短期間、BTCCに出場していたことはあるが、他にはプライベーターが初代や2代目のゴルフでレースをしていたくらいだ。
だからこのゴルフGTI TCRは、VWのモータースポーツ部門がツーリングカー・レースで戦った歴史を後世に伝える最後の証であり、それだけでも手に入れておく価値がある。
TCRの名前を公道に移行させるにあたり、エンジンの最高出力はGTIパフォーマンスの245psから、さらに45ps引き上げられた。ボディのサイドにはデカールが貼られ、そのドアを開けるとTCRのロゴが路面に投影される。
レースから着想を得てリアのディフューザーは大型化。フロント・バンパーにも手が加えられた。ドアの内側とシートにはマイクロフリースが張られている。
オプション・パックを装着すれば、ホイールは18インチから19インチに拡大し、ショックアブソーバーにチューニングが施されたサスペンションは、車高が20mmダウン。最高速度はリミッターが解除され、250km/hから260km/hに引き上げられる。
ベストな使い方は「平日の通勤快速」
8代目ゴルフにさらなる高性能モデルが登場するまで、これがVWホットハッチの頂点に位置する。後部座席を削除した限定生産のクラブスポーツはとっくに完売し、速さで勝るゴルフRは1500ポンド(約20万円)ほど安いからだ(注:日本仕様はGTI TCRのほうがゴルフRより低い価格が付けられています)。
間違いなくTCRは十分に速い。トラクションコントロールが前輪を絶妙に制御し、ターボによって引き出される290psのパワーをなんとか路面に伝えようと奮闘しているのが感じ取れる。
これよりわずかにパワフルなゴルフRと異なり、TCRは4輪駆動システムを持たない。0-100km/h加速は5.6秒と、ゴルフRよりちょうど1秒遅いが、数字ほどの差は感じられない。
乗り心地は固く、後部座席に乗った人はどれほど辛いだろうと心配になる。ロードノイズも盛大に聞こえてくる。後席には大人2人が座れるだけの十分なスペースがある。しかし、快適に乗っていられるかどうかは別問題だ。
TCRのベストな使い方は、主に平日の “通勤快速” として1人で乗り、たまに家族を乗せるだけにすることだろう。