レトロモビル2018　アルピーヌ、ル・マン初優勝40周年　最大のクラシックカーショー

公開 : 2018.03.15 10:10

ヨーロッパのみならず世界中のクルマ好きに新年の到来を告げるイベントとして親しまれているレトロモビルが今年も開催されました。この世界最大かつディープなクラシックカー・イベントの模様を岡田邦雄氏のレポートでご紹介しましょう。

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世界のあちこちで開催されているクラシックカーショーは、だいたいがその国の国産車が主役で、レトロモビルもかつてはフランス車が目立った。今では各国からの参加者も多く、インターナショナルなクラシックカーショーになっている。よく自動車が誕生したのはドイツだが、それを育てたのはフランスだと言われてきたように、実際のところ、自動車史上最初のレースが開催され、最初のグランプリが開催されたのもフランスである。

ル・マン24時間レースが開催される地は、そこはフランスの田舎町なのにイギリスやドイツ、そして戦後にはアメリカや日本からも挑戦者が現れ、世界で最も有名なレースのひとつになっている。また、今でも世界の自動車レースを統括するFIAの本部もパリにあるのだから、やはりフランスのパリこそは今なお自動車文明の歴史的中心地であるのだろう。そのパリで開かれるのがレトロモビルで、今年はアルピーヌ・ルノーがル・マン24時間レースで初優勝を獲得した1978年から40周年となることから特別展示が行われた。

自動車そのものが大きな曲がり角に立っている時代だが、今年で43回目を迎えたレトロモビルは、ヒストリックカー界の冬の社交場として、世界中の関係者が集まり交流する場所としてますます盛況であり、ヨーロッパの自動車文化の豊饒さと奥深さを感じさせた。たとえば、フェラーリ250GT SWBは10台もの参加車両があり、しかもそれぞれがレースの歴史の1ページを飾るようなヒストリーを持っているのだ。そんな車たちがポルト・ド・ベルサイユにある広大な国際展示場に多数展示されているのだから、質も高いが量も半端ではない。そしてクルマのみならずパーツ、書籍、カタログ、モデルカーからオートモビリアと、私は4日間も通ったけれど、それでも全てを見きれないほどの規模である。

今年はル・マン24時間レースでアルピーヌ・ルノーが初優勝を遂げた1978年から40周年となる。今回、ルノーはその年に出場したワークスカー４台すべて揃えて展示した。ゼッケン1は本命の優勝候補マシンで、排気量も2138ccまで拡大した唯一のA443。パトリック・ドゥパイユ／ジャン・ピエール・ジャブイーユの操縦で12時間後までトップを走っていたがリタイア。

この2号車こそが栄光を掴んだ優勝マシンA442Bだ。少年のようなディディエ・ピローニと15歳年長のジャン・ピエール・ジョソーのコンビだった。ピローニはル・マン優勝後、1980年からはフェラーリに抜擢されて若くしてヒーローとなったが、ジル・ヴィルヌーブと因縁の戦いを繰り広げ、その後いくつもの悲劇に見舞われた末にパワーボートで事故死を遂げた。

ルノーに買収され新しい組織となったアルピーヌの2ℓスポーツカーA440をベースに、ルノーが開発に力を入れていたターボ・エンジンを搭載したのがA442で、ル・マンには1976年にたった１台での挑戦から始まり、翌1977年からは4台体制でポルシェと戦ったが、2年目は全滅してポルシェに優勝を許した。そして1978年は3度目の挑戦で栄光を掴んだ。

ゼッケン3の442Aは時々誰よりも速かったジャン・ピエール・ジャリエと耐久王デレック・ベルの英仏のコンビだったがリタイア。

まだユノディエールの長い直線にシケインが設けられる以前だったので、空気抵抗が少ないとされたロングテールボディを持つ。

1978年にジャン・ラニョッテイらが乗ったゼッケン4のA442Aは、2台のポルシェ936ターボに先行を許し4位に終わった。

ルノーと深い関係を持ちながらも独立していたアルピーヌは1963年からル・マンへの挑戦を開始する。小排気量のクラス優勝こそ獲得してきたが、1968年にこのA220で総合優勝に挑戦したが、競争力がなく1969年で撤退したのだった。

フランスのプライベーターであるジャン・ロンドーこそは自らの名前を付けたクルマでル・マンを走って優勝した唯一の男だ。それは1980年のことで、しかも最強のイクスとヨーストのポルシェを破ったのだ。これは1983年からのM482フォード・コスワース。

アラン・ド・キャドネもまた戦前の裕福なジェントルマン・レーサーを偲ばせるアマチュアレーサーだ。ル・マンへ長年にわたり挑戦を続けて最高位は1976年の3位。これはマートラが初優勝した1972年に彼が乗って12位に入ったDFV搭載のダッカムズLM。

ローラは概ねワークスチームを持たず、コンストラクターとしてプライベーターたちにレーシングカーを供給してきた。T70は商業的にも成功したスポーツカーで、日本など世界中のレースで活躍した。これはT70 Mk-3B。

ローラは1970年からグループ6で2ℓスポーツカーのT210/212が成功し、T290/294/296/297/298に発展していった。その3ℓバージョンが主にDFVを搭載したT280/282/286で、多くのドライバーの手でル・マンでも活躍した。これはT282。

1981年シーズンのIMSAで大成功したローラT600はグランドエフェクトを取り入れた初めてのスポーツカー。同年のル・マンではコスワースDFL3298ccのエンジンを搭載して15位。翌1982年にはより過激なボディワークのT610に進化。

今年は70周年を迎えるメーカーやモデルが多い。戦前からさまざま自動車メーカーの開発に携わってきたポルシェが、自らの名前を冠したクルマを自らの会社で生産するようになったのは、戦後になってからだった。

ポルシェ社のブースには特別なヒストリック・モデルの展示はなかったが、会場のあちこちで何台もの356や911系が見かけられた。これは、昨年も展示されていたカレラ・パナメリカーナ参加のエバ・ペロン仕様の356。

販売用にレストア前のバーンファインド状態や、レストア途中の356や911も持ち込まれていたが、これはバック屋さんのディスプレイ。実際のところ、世界のあちこちではこういう状態の356や911がまだ見つかりそう。

会場ではポルシェ917の本物そっくりのレプリカが販売されていたが、これはGTOや412Pやポルシェ917を所有してきた英国のプライベーター・レーサー、デビッド・パイパーの本物のフェラーリ512Mで、1971年のル・マンで4位を獲得。

名手ビック・エルフォード／クロード・バロー・レナの操縦で、フランスのフェラーリ・ディーラーの名門シャルル・ポッジから1973年のル・マン24時間に出場し、総合6位とクラス優勝を勝ち取った365GTB/4がクラブ・フェラーリ・フランスのブースに展示されていた。

今回は多数の250GT SWBが展示されていたが、その中でもひときわオーラを放っていたのが、1961年のモンレリーでのパリ1000kmレースにロドリゲス兄弟のペアで優勝した250GT SWBだった。兄弟は翌1962年のパリ1000kmにも250GTOで優勝している。

ブルース・マクラーレンが初めて開発したF1は1966年5月のモナコGPでデビュー。3ℓに移行した最初のシーズンで、インディ用フォード・エンジンの排気量を縮小して搭載したが、予想より非力で耐久性もなかった。その後、BRMのエンジンを搭載するM4A、M5Aを開発したが、1967年までの2年間は苦戦の連続だった。

しかし、1968年になって、やっと競争力のあるDFVエンジンを獲得して、新型のM7Aを投入した。M7はブルース自身の操縦で、シーズン前のノンタイトルF1のブランズハッチとシルバーストンの2戦で幸先の良いポールトゥフィニッシュを決め、グランプリでも、ベルギー、イタリア、カナダで3勝を記録した。

ブルース・マクラーレンの遺作となったM8D。この車のテスト走行中にホームサーキットのグッドウッドで事故死を遂げたのだ。1967年以降のCan-Amを支配したマクラーレンは、ブルースの不在をデニス・ハルム、ダン・ガーニー、ピーター・ゲシンが補い、この年も10戦中9勝を挙げ、チャンピオンの地位を守った。

1949年から再開した戦後のル・マンで活躍したフランス車といえば、1949年に2位のドラージュや1950年に優勝したタルボ以降は、1972年からのマートラ3連勝まで絶えて無かった。とはいえ小排気量では6回ものクラス優勝や5回もの性能指数賞を獲得したDBパナールの存在を忘れるわけにはいかない。

DBは、やがてCDとルネ・ボネに別れた。CDは1962年のル・マンで引き続きパナールのエンジンを空力的なボディに搭載してルネ・ボネより上位を走り、クラス優勝と性能指数賞を獲得した。CDを率いたシャルル・ドゥーシェは、その後、マートラMS640やポルシェ917/20の空力開発にも関与した。

ルネ・ボネは1963年のル・マンではCDより好成績で11位、クラス優勝、性能指数賞を獲得した。その後、マートラに吸収され、ルネ・ボネ・ジェットは改良されてマートラの生産車となった。マートラはF1やル・マンへの本格的な挑戦を始め、F1でもチャンピオンを獲得すると共にル・マンでも3連勝と成功を収めた。

1938年に発表されたルノーの戦前最後のモデルであり、初めての小型車だったジャヴァキャトル。2ドアか4ドアの実用車だったのに、こんなシックなハードトップ・クーペも用意された。

1947年に発表されたルノーとして初めての戦後型小型車4CVと、1948年に発表されたプジョーとして初めての戦後型小型車203は、2台並べてみると同時代性が感じられるデザインだ。

戦後の新しい時代のための大衆車として開発されたシトロエン2CVも1948年に登場した。こうやって3台を眺めると設計思想の違いが如実にわかる。この2CVはモンレリー速度記録仕様。

1階の大きなスペースに陣取るクラシックカー・ディーラーは、ピカピカに磨き上げた商品を展示していた。しかし2階の片隅のクラブ・ブースでは、あえて埃まみれの1912年ベデリア BD2を展示して本当の愛好家たる誇りを示していた。

フランスでは1100cc以下のサイクルカーのメーカーが群居していたが、ダルモンはモーガン3ホイラーのコピーから出発した。これは最も過激な1926年のダルモン・スペシャルでOHVエンジンを搭載し160km/h以上の速度を記録した。

アミルカーはおとなしい４気筒904ccの経済車から始まったが、やがて2座席のCS、シリンダーヘッドを改良して1074cc30HPのCGSへ、低いシャーシーのCGSSへとスポーツカーとして進化した。これはCGSベースのスペシャル。

パリジャンのジャン・ピエール・ウィミーユはブガッティに乗ってGPばかりかル・マンでも1937年と1939年に優勝したレーサーで、自らの手で戦後の新しい時代にふさわしい全く新しい発想の自動車を開発した。

左は1947年のプロトタイプ1号車でシトロエン11CVのエンジンを持つ。中は1948年の2号車。フランス・フォードの1500ccのV6エンジンを搭載した。空力的で未来的なフォルムと横並び3座席を特徴とした。

こちらは1950年のプロトタイプ4号車。シャーシーは共通して2本の鋼管によるラダーフレームでミッドシップにエンジンを搭載した。こちらはフォード・フランスのV8エンジンを搭載して、最高速度は160km/h。

アルファ・ロメオTZの設計に携わったマリオ・コルッチ技師がアバルトに移籍してから、新世代のアバルトの開発が始まった。それは鋼管スペース・フレームでミッドシップだった。このSE05には1000ccから1450ccまでの様々なエンジンが搭載された。

1000SPとして知られるSE04は1000ccクラス・レーシングカーの頂点だ。ビアルベーロ4気筒982ccに2基のツインチョーク・ウェバーを装着し、8000rpm105HPで480kgの軽い車体にFRPの美しいボディを纏い、飛ぶような軽快さで駆け巡った。

1968年から投入された2000スポルト・スパイダー（SE10）は1000SPの拡大版のようなボディスタイルだが、大きな相違点はリア・エンジンであることだ。カルロはリア・エンジンに拘りがあった。1970年のヨーロッパ・ヒルクライム・チャンピオンだ。

SE10に続くこのSE14、そしてSE19の初期型までの2000スパイダーはカルロが推したリア・エンジンを踏襲してきた。それでミッドシップのライバルたちを打ち破ってきたのだった。

1967年から開発が始まった2968ccの90°V8エンジンも3000スポルト・スパイダー（SE022）に搭載されて1971年のヨーロッパ・ヒルクライム・チャンピオンを獲得するという成果を実らせた。

1971年の末でカルロはアバルトの経営権をフィアットに譲渡したが、レース活動はエンツォ・オゼッラが引き継ぎ、アバルト・オゼッラ2000 （SE021）がヨーロッパ・チャンピオンとなった。

カルロ・アバルトはアバルトの代表からは身を引いた後も、マリオ・コルッチとともにアバルトSE027の開発には携わっていた。新しい発想を取り入れた足回りやシャーシーに、最初は4気筒、次に新開発の6気筒エンジンが搭載された。

SE027のボディワークはピニンファリーナの空洞を活用して開発され、1974年のジュネーブショーではピニンファリーナのブースに展示された。それから10年後に登場したフェラーリ・テスタロッサにはこのサイド・ラインが応用されている。

SE027はカルロの最後の夢だった。しかしフィアットからやってきた新しい経営者たちは、この独創的なプロジェクトの中止を通告し、英国のホルベイにこの計画そのものをパーツや工具とも売り払ってしまった。こうして最後の夢が潰えた。

1960年代、勢いに乗ったアバルトの新型車開発の勢いは止まらなかった。アルファ・ロメオの牙城に迫るGTだって用意された。

それが1959年に登場したフィアット・アバルト2200クーペ2+2アレマーノで、ヨーロッパ大陸移動用のGTとして企てられた。

これはカルロ・アバルト自身の愛車と伝えられる1965年型。オリジナルの2279ccから2338ccに拡大されたエンジンを持つ。

フェラーリから移籍したランプレディが設計したOHV6気筒のフィアット2100/2300Sクーペをベースに、アバルト版はボア・アップして、2200／2400とされた。

ミケロッティのデザイン、カロッツェリア・アレマーノ製作のアルミボディは、大きいけれど伸びやかでエレガントな趣があり、重厚さより軽快さが感じられる。

こちらは1964年モデルで、上のシルバーより古い年式にもかかわらず、テールの造形がモダンな印象で、より新しいモデルのように見えてしまう。

ビアンキーナのフルゴネットは初めて見た。あるいはフランス専用のモデルだったのだろうか？　その名もフルゴンチーノという。

ビアンキーナはヌオーヴァ500より価格が2割増しの豪華版。これはジャルディネラがベースで、リアのエンジンは寝かせて搭載。

この4ドアセダンをご存知でしょうか？　アウトビアンキA111、同じ1969年に登場したフィアット128より一回り大きな上級車種だった。

1966年のイソ・グリフォと1970年のデトマゾ・マングスタの2台を眺めてみると、ジウジアーロこそは最も多才なデザイナーだっただろう、とつくづく思う。オークションではともに28万ユーロ以上の予想落札価格だった。

ベルトーネ／ガンディーニのデザインによるランボルギーニ・エスパーダはSr1からSr3までが揃ってオークションにかけられた。初期型Sr1の落札価格は169,264ユーロ（2252万円）だったが、Sr2とSr3はともにその半額にも届かなかった。

カウンタックの初期型LP400のレストア・プロジェクト。チューブラー・シャーシーだけでも、また機関のついていないボディだけでも、どんな現代彫刻よりも美しいことは、マルセル・デュシャンだって賛成してくれるだろう。

戦争が終わったばかりの傷跡が癒えない時代だというのに、アルファ・ロメオはグランプリに復帰して圧倒的な戦歴を残し、さらに豪華極まる6C 2500を販売した。戦後間もない日本となんという差であろう。

材質といいデザインといい、凝りに凝ったダッシュボード。そんな時代でも納車先の顧客リストは貴族や富豪ばかりが名を連ねていた。オークションでは100万ユーロ（1億3300万円）以上の予想落札価格だったが流札。

6C 2500はヴィットリオ・ヤーノ設計の6気筒エンジンの系譜の最後に位置し、戦前の栄華を偲ばせる。この後のモデルからアルファ・ロメオは時代とともにだんだんと大衆に近づいていった、と言えようか。

ベルトーネのフランコ・スカリオーネのデザインによるアルファ・ロメオ・スポルティヴァは1900のエンジンをボア・アップして2000とされ、1954年から1955年にかけて2台製作されたプロトタイプ。ジュリエッタに通じるボディスタイルだ。

このスポルティーバはアルファ・ロメオのムゼオから放出され、オーストラリアにあったが、その後日本の某所に人知れず隠されていた。そののちヨーロッパに帰ってヴィラ・デステで久しぶりにお披露目された、という数奇な運命を歩んでいる。

第2時世界大戦後のアルファ・ロメオのレース活動は断続的で、元フェラーリのカルロ・キティが来たことによって新しいV8エンジンを搭載したティーポ33の開発が始まった。そのロードバージョンのデザインはフランコ・スカリオーネによる。

航空機の技術者から出発し、チシタリア202アエロディナミカを開発したジョヴァンニ・サヴォヌッツィは、後にカロッツェリア・ギアのデザイナーとしてスーパーソニックというデザインを完成した。

ミド・センチュリーのアトミック・エイジにふさわしいジェット戦闘機のイメージを取り入れたスタイルで、これはフィアット8Vだがアルファ・ロメオ1900やアストンマーティンにも架装した。

これはトポリーノをベースにシアタがチューンした500ccクラスの速度記録車。レーシングカー用アルミボディで名を上げたトリノのカロッツェリア・ロコ・モットの造形がファニーでキュートだ。

ミニチュアカーもますます活況を呈しており、個人モデラーによる小ロットの製品も多い。

これはまた熱心なモデラーによるマニアック極まる1970〜1972年ごろのF2マシンを網羅したシリーズ。

アンティークのティン・トイなどは下手な中古車よりも高値の物も多い。これはシトロエンC6。

クラシックカー・ラリーには、雰囲気を崩さない当時のタイマーとストップ・ウォッチを使うのが近頃の流行のようだ。

可愛い表紙を眺めていたら話しかけてきた婦人は、このバイク・エンジンメーカーの創業者のお孫さんでした。

当時のオリジナル・ポスターを専門で扱う業者もいくつか出店。日本では知られざるレースのポスターも多い。

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