オンロード×四輪駆動:アウディUrクワトロ キッカケは全速力の逃亡:オペル・モンツァ FF (1)

公開 : 2024.01.21 17:45

予想より立ち上がりが鋭い四輪駆動の効果

四輪駆動システム自体は、ジェンセンFFの設計へ近い。改良版のビスカス・カップリングがトランスミッションの後方へ固定され、前後に駆動力を伝達。フロントのドライブシャフトは、エンジン下部のオイルパンを貫いている。

フロント・サブフレームとフロアパンは専用品。ブレーキサーボも、アンチロック機能に対応する独自アイテムへ交換された。

オペル・モンツァ FF(1981〜1986年/欧州仕様)
オペル・モンツァ FF(1981〜1986年/欧州仕様)

車重は、通常のモンツァから121kg増えている。ところが、動力性能に目立った悪影響はなかった。3速ATは緩やかに加速させる特性を持ち、違いを和らげていたようだ。

かくして、四輪駆動の効果は明らか。滑りやすそうな濡れた砂利道でも、予想より立ち上がりは鋭い。FRのモンツァでは、限界領域でオーバーステアへ転じるが、モンツァ FFでは巧みに抑えられている。

最高出力は182psで、前後のトルク分配率は36:64。リア側が主体のためFRのような感覚も伴うが、安定性はより高い。

FFデベロップメント社によるアンチロック・ブレーキの印象は、若干不自然。1980年代後半から普及した、ボッシュ社のシステムほど洗練されていない。効果としては同等といえるが、完全にロックを防ぐことはできない。

ブレーキペダルの感触は、フルードが不足した状態のようにスポンジー。とはいえ、濡れた路面でも不満ない制動力を生み出す。ぬかるんだ路面でペダルを踏み込むと、圧力が調整されている様子を足裏越しに感じ取れる。

イルティスで完成していたVWのシステム

対して、アウディ・(Ur)クワトロが誕生したいきさつは、もっと平和的。ご存知の読者も多いだろう。

アウディで実験的なパワートレイン開発を担っていた、技術者のヨルグ・ベンジンガー氏は、高性能モデルの四輪駆動化へ強い関心を寄せていた。フォルクスワーゲン・グループによる四輪駆動システムは、フォルクスワーゲン・イルティスで完成していた。

アウディ・クワトロ(Urクワトロ/1980〜1991年/英国仕様)
アウディ・クワトロ(Urクワトロ/1980〜1991年/英国仕様)

ドイツ連邦軍からの要請で、フォルクスワーゲンは軽量・安価なオフローダーを開発。
1978年のイルティスは、同社キューベルワーゲンの精神を受け継いでいた。

実質的に開発を担当したのはアウディ。NSU時代からの特徴といえる、縦置きエンジン・フロントドライブのレイアウトは、四輪駆動化にも向いていた。

クワトロの発売は、1980年11月。シャープなボディは、同年の春に発売されていたアウディ80 クーペと共有し、ターボチャージャーで過給される2144cc 5気筒エンジンも同社の200で実績を積んでいた。

最高出力は200ps。インタークーラーと改良されたエンジン・マネージメントで、高出力化を叶えた。

モンツァ FFとの四輪駆動の技術的な違いは、トルクの分配方法にある。ロック可能なセンターデフを備え、前後の分配率は50:50と均等。厳しい路面で、強みを発揮する設定といえる。2台とも最低地上高が限られ、オフロード性能に長けるわけではないが。

オンロードでは、シンプルなシステムのおかげで快活。車重はモンツァ FFより200kg以上軽く、グリップ限界も高い。

この続きは、アウディ・クワトロ オペル・モンツァ FF(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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