WRCで活きた技術と経験:オペル・モンツァ FF 攻め立てると才能が輝く:アウディ・クワトロ (2)
公開 : 2024.01.21 17:46
四輪駆動の速さを証明したUrクワトロ 極めて希少な同時期のモンツァ FF オフローダーではない四駆クーペの魅力を、英国編集部が振り返る
もくじ
ー少し無骨な機械感が漂うクワトロ
ー6台しか製造されなかったモンツァ FF
ー世界ラリー選手権で活かされた技術と経験
ー番外編:モンツァ FFの75%を所有するマニア
ーアウディ・クワトロ オペル・モンツァ FF 2台のスペック
少し無骨な機械感が漂うクワトロ
アウディ・(Ur)クワトロでは、オペル・モンツァ FFのように、リアタイヤが外側へスライドするような挙動を楽しめない。1988年に2.2Lの後期型MBシリーズへアップデートした段階で、トルセン式ディファレンシャルを採用。その弱点は改められた。
5気筒ターボエンジンのトルクは、最大75%までリアへ分配可能に。ドライコンディションでのアンダーステアも、大幅に軽減された。あいにく、今回は最後までウェット状態だったけれど。
インテリアは、クワトロがブラック基調。シートは硬めのクロスで包まれる。モンツァ FFも黒い世界だが、ベロア生地とウッドトリムで飾られ、豪華なグランドツアラー感を漂わせる。
低速域での乗り心地も、モンツァ FFの方が快適。防音性に優れ、3.0L直列6気筒エンジンのリニアなパワーを、しっとり味わえる。かといって、ロー&ワイドなプロポーション通り、スポーツカーらしさもしっかり備わる。
運転席からの視界は広く、ハイペースでの運転もしやすい。乗り比べてみると、モンツァ FFの方が挙動を予想しやすい。限界領域も、予め感じ取りやすいようだ。
クワトロは、低速域では少し無骨な機械感が漂う。シフトレバーとクラッチペダルのストロークは長めで、ステアリングホイールは理想より若干大きい。1980年代らしいターボラグは、滑らかな体験と相容れない。
6台しか製造されなかったモンツァ FF
しかし、ハードに攻め立てると才能が輝き始める。ターボブーストを保つ限り、5気筒エンジンは夢中にさせるパワーを繰り出す。シフトレバーのぎこちなさも、運転へ集中すれば気にならなくなる。
比較すると硬めのサスペンションは、英国の傷んだ路面を流暢にいなす。適度に引き締まり、充分しなやか。凹凸を均し、ある程度のボディロールを生むものの、フロントに荷重を移しながら左右へ活発に回頭していく。
コーナーの内側が盛り上がっていても、フロントタイヤが積極的に食らいつく。後輪駆動へ乗り慣れている人にとっては、新鮮な体験だろう。
加えて、クワトロは約20psも最高出力で勝り、遥かにパワフル。自然吸気のモンツァ FFの方が扱いやすいとしても、車重が軽く、その差は大きい。新車時代から、比較試乗で指摘されてきた事実だ。
この2台は、四輪駆動のスポーツクーペが、秀でた動的能力を発揮することを証明した。だが、モンツァ FFは市場を掴むことができなかった。1981年からの6年間に、6台しか製造されていないのだ。
四輪駆動化のコストが、約5500ポンドと安くなかった。モンツァ FFの英国価格は、当時で1万9363ポンド。アウディは、クワトロを1万4500ポンドで提供していた。
1981年のモーター誌の取材で、技術者のトニー・ロルト氏は次のように述べている。「アウディは、わたしたちの主張を受け入れ、素晴らしいクワトロを生み出しました。しかし、50:50のトルク分配率が正しいとは思えません」
画像 オンロード×四輪駆動 アウディ・クワトロ オペル・モンツァ FF ヤリスからレヴエルトまで:現代の四駆スポーツ 全112枚