「走りはドイツ車」な英国車 飛行機から自動車へ ブリストル400 ドロップヘッド・クーペ(1)

公開 : 2024.01.27 17:45

飛行機から自動車へ業種を広げたブリストル ブランドの未来を探った1台のドロップヘッド・クーペ 量産に至らなかったプロトタイプを英国編集部がご紹介

走りはドイツ車 インテリアはイギリス風

80年前の世界でも、自動車産業は競争が激しかった。英国のとある新興メーカーは、二者一択に悩んでいた。小さな部品1つまでこだわり、徹底的なオリジナリティを追求するか、設計担当者を他社の自動車工場へ出向かせたり、優れた既存部品を活用するか。

前者の手法で成功を掴んだのは、エットーレ・ブガッティ氏だろう。後者を選んだ人物には、キャロル・シェルビー氏が挙げられる。だが、ブリストルのジョージ・スタンリー・ホワイト氏は、両方を組み合わせようと決断した。

ブリストル400 ドロップヘッド・クーペ・プロトタイプ(1947年/欧州仕様)
ブリストル400 ドロップヘッド・クーペ・プロトタイプ(1947年/欧州仕様)

膨らんだフェンダーが、エレガントにカーブを描く。前方からは、直列6気筒エンジンの唸りが響く。ソフトトップが綺麗に後方へ折り重なった、ブリストル400 ドロップヘッド・クーペは、そんな手法で生み出された1台だ。

丸みを帯びたフロントノーズの中央には、縦に長いキドニーグリルが備わり、1930年代のBMWを想起させる。小気味よく回る粘り強いエンジンと、驚くほどクイックなステアリングが、その印象を強める。

手のひらや足の裏へ伝わってくるのは、明らかにドイツ・バイエルンの息吹。ところが、上質なインテリアは一転して英国風。ボディと同色に塗られたアールデコ調ダッシュボードや、白いメーター類は見当たらない。

残存する400として最古のドロップヘッド・クーペ

バルクヘッドいっぱいに木材が渡され、黒いメーターが中央に並ぶ。シートは風合いのいいコノリー・レザー張り。オリジナルのBMWより洗練され、保守的でもある400 ドロップヘッド・クーペは、居心地がすこぶる良い。

頭上には青空が広がり、木々の緑が周囲を流れていく。400 サルーンの車内は少し窮屈だが、フロントガラスの位置は低く、雰囲気は開放的。サイドウインドウを降ろして、分厚いウッドトリムで飾られたドアに肘を載せたくなる。

ブリストル400 ドロップヘッド・クーペ・プロトタイプ(1947年/欧州仕様)
ブリストル400 ドロップヘッド・クーペ・プロトタイプ(1947年/欧州仕様)

風の巻き込みは、意外なほど少ない。シートポジションと、空力特性にも多少配慮されたボディのおかげで、激しく髪が舞い踊ることはない。喜びで心が満ちる。

こんな魅力を知っていたのか、競合メーカーもオープンスポーツを次々にリリースした。ジャガーにAC、アストン マーティン、MG、トライアンフなどが、戦後のブームを形成していった。

400のサルーンは、緩いサスペンションで乗り心地はマイルド。優しくボディを傾ける。クリーム色のドロップヘッド・クーペでは、趣あるエンジンサウンドとエグゾーストノートを豪快に響かせ、エネルギッシュさがプラスされている。

このドロップヘッド・クーペは、英国の産業史へ重要な1ページを刻んだ。1947年前半に製造され、シャシー番号は400/1/004が振られている。ブリストル・エアロプレーン(BA)社が自動車製造へ乗り出したことを記念する、貴重な1台だ。

モーターショーへ向けて、最終プロトタイプとして4番目に作られ、残存する400としては最古。戦後の工業遺産の1つといっていい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    エマ・ウッドコック

    Emma Woodcock

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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