「クルマが戻ってこない」 VW、バッテリー部品不足で点検進まず 欧州
公開 : 2024.01.16 06:05
・VWグループが欧州で販売するEVで、部品不足が発生。
・ウクライナ製「熱伝導ペースト」が戦争で供給滞り。
・点検してもオーナーに車両返却できず、代車でやりくり。
愛車が点検から戻らない 戦争で部品届かず
フォルクスワーゲン・グループのEV(電気自動車)の部品不足により、顧客は点検整備に出したクルマが返却されず困っている。バッテリーの温度管理に必要な熱伝導ペーストはウクライナ製で、ロシアとの戦争の影響で供給不足に陥っている。
同グループ傘下でスペインの自動車ブランドであるクプラは、昨年7月に欧州で小型EV「ボーン」のバッテリー点検キャンペーンを実施したが、バッテリーケースを密閉するために必要な材料が届かなくなった。
整備工場でバッテリーケースを開けて部品をチェックしても、ウクライナ製の熱伝導ペーストの在庫切れにより再密封することができない。その結果、欧州では何十台もの車両が工場で立ち往生しており、グループ全体に影響が広がる可能性もある。
英国在住のEVオーナー、ジェリー・ホーキンスさんは遅延の影響を受けた1人だ。
「2022年9月に(ボーンを)新車で購入し、昨年10月にキャンペーンの通知を受け取りました。ディーラーにクルマを持ち込むと、バッテリーモジュールに問題があることがわかったんです」
「ディーラーでは適切な資格を持つ技術者がいないと言われたので、クルマをサウサンプトンの主要バッテリーセンターに送り、作業を依頼しました」
「しかし、この整備工場でモジュールを交換した後、バッテリーケースを密閉するために必要なペースト(ウクライナ製)の在庫がなくなり、いつ入荷するかわからないと言われました。保証を無効にしない限り、他の製品は使えないとのことでした」
「その結果、10月以来、最初はディーラーから、現在はVWグループから提供される代車に乗り続けています」
ディーラーも影響を受けている。英国の独立系ディーラー、EVエキスパーツ社の共同設立者のエステル・ミラー氏は取材に対し、商品として取り扱っていたボーンの1台を同じく点検キャンペーンでクプラの整備工場に送ったところ、バッテリー部品を待つために7週間も足止めされた後、最近ようやく戻ってきたと語った。
「整備工場では、部品を待っているボーンが他に16台あると聞きました。うちの分が戻ってきたのは幸運に思うべきですね」
社外品は使えない? 問題はどこに
こうした状況に対し、クプラの広報担当者は次のようにコメントしている。
「ウクライナにおけるサプライチェーンの課題により、点検キャンペーンを完了するために必要な熱伝導ペーストの調達に遅れが生じていることは事実ですが、状況が不透明であるため、問題の解決時期を提示することはできません」
「クプラは、回復力を高め、お客様への影響を最小限に抑えられるようサプライヤーや部品メーカーと協力し、問題解決を早めるためにあらゆる努力をしています」
ボーンの兄弟車であるEV、フォルクスワーゲンID.3も同様の点検キャンペーンの対象となっており、同じような苦境にある。
フォルクスワーゲンの広報担当者は「現在、熱伝導ペーストの調達に遅れが生じています。しかし、お客様への影響を最小限にするため、サプライヤーと協力しています。このキャンペーンは新年中に終了する予定ですが、引き続き供給状況を注視していきます」と述べた。
本誌は今のところ、ID.3オーナーから部品不足に関する情報を受け取っていない。
英国の独立系ガレージ、クリーブリーEV社のマット・クリーブリー氏は、遅延の影響を受けているボーンとID.3のオーナーは「管理の悪さ」の犠牲者だと指摘した。
「ディーラーは、フォルクスワーゲン・グループのサプライヤーと合意した正規部品を使用しなければなりません。しかし、わたし達が使用しているような、入手容易で高品質な熱伝導ペーストであれば、まったく問題ありません。これはEVの問題ではなく、管理の問題なのです」