メルセデス・ベンツ280GE レプリカ(2) ジャッキー・イクスの感じた風 1983年のダブル優勝

公開 : 2024.02.03 17:46

発進してすぐワイルドな性格が顕に

見た目だけでなく、パワートレインのアップグレードも再現された。「エンジンをチューニングするためAMGへ送ったほか、5速ドッグレッグ・パターンのトランスミッションと、1:528のギア比のデフも組まれています」。とサンドが説明する。

「唯一、オリジナルと違う部分はサスペンションです。本来の仕様では扱いにくいとわかったので、硬くしました」

メルセデス・ベンツ280GE 1983年パリ・ダカール・ラリー仕様レプリカ(1982年式/欧州仕様)
メルセデス・ベンツ280GE 1983年パリ・ダカール・ラリー仕様レプリカ(1982年式/欧州仕様)

2022年に開かれたイベント、ダカール・クラシックで、サンドはサウジアラビアに広がる砂漠、7500kmの走破へこのレプリカで挑んだ。その時を、彼が振り返る。「クルマの仕上がりは素晴らしいものでした」

「しかし、川を横断中にパンク。当時のタイヤには、スチールバンドが用いられていましたからね」

2023年に開催されたグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードにも、この280GEは姿を見せている。会場のオフロード・アリーナなど、意に介するような悪路ではないだろう。筆者はこれに先駆けて、ステアリングホイールを握らせていただいた。

発進してすぐ、ワイルドな性格が顕になる。AMGがチューニングした直列6気筒エンジンは、極めて鋭く回る。専用カムとショートレシオのデフが組み合わさり、非常にエネルギッシュ。リミッターへ迫るほど、排気音と吸気音が不協和音のように高まる。

目線は高いが、サスペンションは適度に引き締まり、積極的に速さを求めていける。シフトアップしても、突進するペースは衰えない。

地平線の先を見つめ、疾走し続けてみたい

興奮を冷ますため速度を落とすと、エンジン音も静まる。トランスミッションの唸りはほぼなく、タイヤが蹴り上げる小石の音が聞こえてくる。かなり生々しいマシンだが、予想したほど疲労感は大きくないようだ。

ストレートでは貪欲にギアを選び、一心不乱に加速。ツインカム直6エンジンのサウンドを、周囲へ充満させながら。カーブでは荷重移動に合わせて、ボディがロールする。ダート路面から鋭く脱出できる、不満ないパワーが放たれる。

メルセデス・ベンツ280GE パリ・ダカール・ラリー仕様(1983年式)
メルセデス・ベンツ280GE パリ・ダカール・ラリー仕様(1983年式)    メルセデス・ベンツ・アーカイブ

主要な操縦系は扱いやすく、ノーマルのゲレンデヴァーゲンと同じくらい運転しやすい。サイドウインドウは、小さく一部がスライドするポリカーボネイト製だが、通気口から気持ち良い外気が流れ込んでくる。イクスも、この風を感じていたのだろうか。

数1000kmに及ぶ冒険へ相応しい、頼もしさと親しみやすさがある。グッドウッド・サーキットの外れには、少し荒れたオフロードが広がっている。乾いた土の上でも、トラクションは高いまま。脱出加速でもたつく様子は微塵もない。

フカフカの砂の上では、280GEはもう少し手を焼いたのかもしれないが、大きくは違わないだろう。地平線の先を見つめ、右足を倒し、疾走し続けてみたいと筆者も思った。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

メルセデス・ベンツ280GE レプリカの前後関係

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