伝統の内燃スポーツへ「終止符」 ジャガーFタイプ 長期テスト(1) オールドスクールなマッスルカー
公開 : 2024.01.27 09:45
歴史的な節目を迎えたジャガーのクーペ 同社最後のV8エンジンを改めて堪能 失ったものの大きさと今後への期待を、長期テストで掘り下げる
初回 ジャガーの内燃スポーツカーへ終止符
10年前に華々しいデビューを飾った、ジャガーFタイプ。その頃、歴史あるブランド最後の内燃エンジンモデルとして、歴史へ刻まれることになるとは想像していなかった。直接的な後継モデルが、開発されないことも。
だが5年ほど前から、それが避けられない事実だと、受け止めざるを得なくなった。伝説的なスポーツカー、ジャガーEタイプの子孫が絶たれてしまうことへ、複雑な気持ちを抱くようになっていた。
遂に生産終了を迎える今、AUTOCARでは改めて、パワフルな最後のFタイプで長期テストを実施することにした。悲劇の始まりなのか、新時代の幕開けなのか、少し時間をかけて検証したいと思う。
英国編集部が選んだのは、最高出力575psを発揮する、5.0L V8エンジンを搭載したFタイプ R75。この末尾の数字は、Eタイプの誕生以来75年間続いたジャガーのスポーツカーへ、1度終止符が打たれることを意味している。
V8エンジンはスーパーチャージャーで過給され、専用チューニングの8速ATを介し、四輪を駆動する。この四輪駆動システムは、フロントタイヤのトラクションも必要だと判断されるまで、可能な限り後輪駆動状態が保たれる。サスペンションもR75の専用設定だ。
ほぼ、理想的なFタイプといっていい。唯一、筆者の考えと一致しないのが、カルパチアン・グレーという塗装。最後を飾る特別仕様なら、もっと鮮やかな色で強い印象を残した方が良いだろう。
オールドスクールなマッスルカー
Fタイプのトップグレードは、間違いなく素晴らしい。現代でも不足ない動力性能を備え、追加の必要がないほど装備は充実している。
長期テスト車の英国価格は、合計で丁度11万1000ポンド(約2064万円)。その内、オプションが約8000ポンド(約149万円)を占める。
パノラミック・ガラスルーフと高価な20インチ・ホイール、カルパチアン・グレー塗装、アップグレードされたレザー内装などは、選ばなくても良かっただろう。これらを省けば、5000ポンド(約93万円)ほどお安くなる。
最高速度299km/hの高性能モデルだと考えると、Fタイプはコストパフォーマンスが良い。筆者は久しぶりに運転したが、改めて完成度の高いモデルだと感じる。
ボディはワイド&ロー。全長はコンパクトなハッチバック程度しかなく、美しく膨らんだリアフェンダーのラインが勇ましい。車重は1780kgと軽くはないが、同程度の大きさのバッテリーEVと比べれば、500kg前後は軽い。
V8エンジンを始動させると、あからさまにオールドスクールなマッスルカー。最近の内燃エンジンモデルと、一線を画す。
ステアリングホイールを握ると、その印象は一層強まる。サイドボルスターの立ち上がったシートが横っ腹を包み、お尻の位置は路面へ着きそうなほど低い。センターコンソールは高く、助手席と空間を明確に仕切っている。
ルーフは低く、フロントガラスは寝かされている。視界が特に優れるわけではないが、スポーツカーらしく、しっかり意図されている。