伝統の内燃スポーツへ「終止符」 ジャガーFタイプ 長期テスト(1) オールドスクールなマッスルカー

公開 : 2024.01.27 09:45

英国郊外の制限速度内でも走りは格別

ただしエンジンサウンドは、スペックから想像するほどV8っぽくない。排気ガス規制のユーロ6へ対応した、マフラーのせいだろう。センターコンソールのボタンを押すと唸りが増すはずだが、常用回転域では目立った違いはない。

思い描いた怒号へ浸りたいなら、3500rpm以上は回す必要がある。そこで、最大トルクの71.2kg-mに到達する。

ジャガーFタイプ R75 クーペと、担当者のスティーブ・クロプリー
ジャガーFタイプ R75 クーペと、担当者のスティーブ・クロプリー

実際、爆発的なほど強力。パワフルなバッテリーEVへ並ぶ勢いはなくても、滑らかに調律された8速ATが、豪快にパワーを路面へ展開し続ける。

最高出力は6500rpmで達成されるが、公道で楽しむことは難しい。本領を発揮させるには、サーキットへ持ち込む必要がある。それでも、普段の道で特別な体験は味わえる。

英国郊外の制限速度、97km/h以下でも走りは格別。ワインディングを勢い良く駆け登り、強力なブレーキを最小限に効かせる。現実的な環境でキビキビと走らせる時、Fタイプ以上に優れたモデルは極めて限られる。

ステアリングも素晴らしい。時折フロントタイヤへもトルクが伝えられるが、操舵感に悪影響はないといっていい。ステアリングホイールの直径と、リムの太さも丁度いい。

長距離のドライブを、快適に楽しむこともできる。弱点といえば、ザラついた路面で大きくなるロードノイズ。正直なところ、かなりウルサイ。

寂しく恋しい気持ちが湧いてくる

ハイブリッドへ慣れた感覚からすると、Fタイプ R75の9.6km/Lという燃費は、かなり悪く感じてしまう。70L入るタンクを満たすと、約100ポンド(約1万9000円)かかる計算。航続距離は530km前後で、多くのバッテリーEVより遠くは目指せる。

これまで少しの時間、筆者は一緒に過ごしてみたが、確かに若干古い感じは否めない。それでも、心地良い。

ジャガーFタイプ R75 クーペ(英国仕様)
ジャガーFタイプ R75 クーペ(英国仕様)

バッテリーEVはスムーズでパワフルかもしれないが、まだ個性で劣る。聴覚的な主張も遥かに違う。このサウンドを鑑賞できなくなると考えると、寂しく恋しい気持ちが湧いてくる。今後の数か月で、どんな心象の変化が生まれるだろうか。

セカンドオピニオ

英国編集部では、発売時にFタイプの長期テストを実施している。その時は、本当にオールドスクールで、少し荒削り感の漂うモデルだと感じた。

しかし時間が過ぎ、他では得られない体験を与えるモデルへと印象は変わった。スティーブは長い時間をかけて、別れの素晴らしいひと時を味わうことになるだろう。 マーク・ティショー(Mark Tisshaw)

ジャガーFタイプ R75 クーペ(英国仕様)
ジャガーFタイプ R75 クーペ(英国仕様)

テストデータ

テスト車について

モデル名:ジャガーFタイプ R75 クーペ(英国仕様)
新車価格:10万3075ポンド(約1917万円)
テスト車の価格:11万1000ポンド(約2064万円)

オプション装備

20インチ 5スプリットスポーク・アルミホイール :2000ポンド(約37万2000円)
カルパチアン・グレー塗装:1335ポンド(約24万8000円)
パノラミック・ガラスルーフ:1335ポンド(約24万8000円)
エクステンデッド・レザーシート:1055ポンド(約19万6000円)
クライメート・パッケージ:685ポンド(約12万7000円)
盗難防止トラッカー:545ポンド(約10万1000円)
ブラインドスポット:アシスト:500ポンド(約9万3000円)
ドライバーアシスト・パッケージ:470ポンド(約8万7000円)

テストの記録

燃費:9.6km/L(WLTP値)
故障:なし
出費:なし

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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