ポルシェ911 GT3 RSへ試乗(1) ダンパーだけで「6561通り」の組合せ シャシー調整を極める

公開 : 2024.01.24 19:05

最新の911 GT3 RSへ実装された、広範なシャシーの調整機能 細かな設定は明確な違いを生むのか 英国編集部がシルバーストン・サーキットで確認

広範な調整を可能とした最新の911 GT3 RS

ピットレーンを抜けて、何度目かのコースイン。シルバーストン・サーキットのハンガーストレートで、車速は260km/hへ迫る。思わず、独り言を口にしてしまった。「今何をしているんだ? レーシングドライバーでもないのに・・」

ステアリングホイールへ並んだ4つのダイヤルの1つを、カチカチと回す。ポルシェ911 GT3 RSのリミテッドスリップ・デフの効きを、少し変えてみる。アクセルオフ時のロック率を弱めてみた。

ポルシェ911 GT3 RS(英国仕様)
ポルシェ911 GT3 RS(英国仕様)

ブレーキを効かせながらコーナリングする場面で、より自由に旋回できるようになる。その結果、フロントタイヤを直進へ戻すタイミングが僅かに早まり、脱出加速へ早期に移れる。

4.0L水平対向6気筒エンジンが繰り出す、525psも素早く展開できるようになる。理論としては、ラップタイムを削る賢明なアプローチといえる。

しかし、ポルシェのワークスドライバーで最速の男、ケビン・エストレ氏なら、ステアリングヨークのダイヤルと対峙し、高次元で煮詰めるはず。65万ポンド(約1億2090万円)する911 GT3 Rの能力を、完全に引き出そうとするだろう。

僅かな違いが、レースの結果を左右する可能性がある。アマチュアが楽しむサーキット走行会で、同じ次元を求めるのは大げさすぎるかもしれない。とはいえ最新の911 GT3 RSも、広範な調整を可能としている。

ダンパーの組み合わせだけで6561通り

ダイヤル1ノッチの違いを、筆者は実際に体感できるだろうか。どれほど重要なものなのだろう。

そんな疑問の答えを求めて、シルバーストン・サーキットを訪ねてみた。911 GT3 RSの複雑さを知ると、ちょっと苦笑いしてしまう。ダンパーの減衰力の組み合わせだけでも、単純計算で6561通りある。

ポルシェ911 GT3 RS(英国仕様)
ポルシェ911 GT3 RS(英国仕様)

前後アクスルそれぞれ、圧縮と伸長を個別に−4から+4の9段階へ切り替えられる。これは序の口で、リミテッドスリップ・デフも加速と減速で9段階に調整できる。これを合わせると、設定は50万通り以上。トラクション・コントロールも、別に調整可能だ。

しかも、ノートパソコンを車載コンピューターへ繋ぐ必要はない。バケットシートに座ったまま、指先で切り替えられる。

本音をいえば、ケータハム・セブンのようにシンプルな方が楽しいかもしれない。3枚のペダルとステアリングホイールが、高精度で機能すれば充分ではある。

だが、最新技術の実装は、現代の高性能モデル市場では避けることができない。マクラーレンフェラーリも、独自性を高めるために開発へ注力している。ポルシェも、1987年の959から、調整式ダンパーを先進的な特長の1つとしてきた。

2005年には、可変式ダンパーのポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント(PASM)が登場。油圧アンチロールバーによる、ポルシェ・ダイナミック・シャーシ・コントロール(PDCC)も、2012年に採用されている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

ポルシェ911 GT3 RSへ試乗の前後関係

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