ハースF1退団の衝撃 ギュンター・シュタイナー 「電話1本で解任」のわけ

公開 : 2024.01.28 18:05

・ハースF1退団について、ギュンター・シュタイナー本人がすべてを語る。
・ある日突然かかってきた、たった1本の電話で解任を告げられた。
・白紙からチームを立ち上げたが、オーナーとビジョンを共有できなかった。

ゼロからF1チームを作った男

1月10日、レッドブルのクリスチャン・ホーナー、メルセデスAMGのトト・ヴォルフに次いでF1で3番目に長くチーム代表を務めたハースのギュンター・シュタイナーが、突然の退任を表明した。

最近、パドックのあちこちで流動的な人事が見られるが、シュタイナーは単なる雇われ経営者ではなくチームの中心人物だっただけに、離脱のニュースは衝撃的だった。

ギュンター・シュタイナーは自らF1チームを立ち上げ、代表として舵を取ってきた。
ギュンター・シュタイナーは自らF1チームを立ち上げ、代表として舵を取ってきた。

かつてジャガーとレッドブルに在籍していたシュタイナーは、白紙の状態からF1チームを立ち上げた。

フェラーリダラーラから可能な限り資材を調達し、少人数のフルタイムスタッフを抱えるというコンパクトなチーム運営を提案し、工作機械王ジーン・ハースを説得して出資にこぎ着けた。

こうして設立されたハースF1チームは、2016年のデビューレースでロマン・グロージャンが6位に入り、センセーショナルなスタートを切った。その2年後にはコンストラクターズ選手権で5位という驚異的な成績を収めた。

しかし、その後は他チームの台頭により厳しい戦いが続き、2020年にはパンデミックに見舞われた。2023年、ワンラップのペースは良かったものの、10位と最下位に転落した。

衝撃の退団

直近の3年契約が12月末で切れると同時に、彼はジーン・ハースから残留はないと告げられた。

「彼が電話してきたんだ。突然のことだった。わたしは、『オーケー、何を話したいんだ?』という感じだった」

「彼は『契約を延長したくない』と言った。わたしは『最終的には、あなたが決めることだ。あなたのチームだし、契約も切れる。わたしには何もできない。何を言おうと、あなたは反対するだろう。この話はここまでにしておこう』と言った」

「とても短い電話で、大きな話し合いでも何でもなかった。とても不思議な感じだった。10年も一緒に仕事をしていて、そんな電話がかかってくるなんて……不思議なこともあるものだ。わたしは大丈夫だった。ただ前に進むだけ。大丈夫。とにかく、そこで起きていることがもう信じられなくなった」

2人は進むべき道について根本的な意見の相違があった。シュタイナーはライバルチームがファクトリーインフラを増強していることをはっきりと理解しており、それに追いつくためにさらなる投資を求めていた。

オーナーとの「ギャップ」

一方、ハースはチームの既存のリソースでより多くのことを達成できると考えていた。

「何かを変える必要があった」とシュタイナーは言う。「ハースのやり方が間違っていたとは言わない。他のみんなはちゃんとやってくれた。F1はハースが始動したときから、この5年で変わってしまった。まったく違うゲームになった。みんな強いチームだ」

チームオーナーのジーン・ハースとの間には意見の相違があったという。
チームオーナーのジーン・ハースとの間には意見の相違があったという。

「F1を理解しているのであれば、目を開いて他のチームが何をしているのか見る必要がある。ハースはそれをやっていない。ある段階で、(ハースの)このやり方では何もできなくなる。もう、時間がないんだ」

シュタイナーは、現在の英国拠点(バンベリーにある旧マノー・マルシャの施設)はもはや目的に適っていないと考えている。

設計と製造はすべて遠く離れたイタリアで行われている。他のチームが(2021年に導入された)予算上限を下回るようにするため、そうした分野でとことん効率化を追求する中、ハースは取り残された。

「この予算上限を理解した人は、誰もが運営予算を最大限に活用するためにインフラに投資し始めた」

「現時点では、(外部のサプライヤーから)モノを購入するのは最善の方法ではない。ただお金を使うのではなく、お金を得るために投資する必要がある。繰り返すが、彼がやりたくないのなら、やらないのはまったく正しいことだ。わたしは彼にやり方を教えるつもりはない。チームを所有しているのは彼だからだ」

ハースは、サプライヤーのダラーラとフェラーリが設定した部品価格を支払う約束で、そのコストを縮小する方法はない。

「おわかりの通り、立ち往生しているんだ。彼らはお金を稼ぐ必要がある。そうでなければ、売る意味がないだろう。しかし、どう成し遂げるか、ビジョンを持つことも大切だ。フェラーリのサスペンションを買うのが間違っているとは言わない。でも、少なくとも物事を改善しようという流れが必要なんだ」

「また、より多くのスポンサーを惹きつけるためには、より多くのものを提供する必要がある。誰もがスポンサーに提供するものを準備しているからだ」

「他の9チームと足並みを揃えるストーリーが必要だ。他の9チームがみんなバカだとは思わないからね。9対1なら、普通は9チームが正しい」

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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