フランスから米国車が発売? 美しきV8スポーツクーペ「コメット」 50年代の名車

公開 : 2024.01.31 18:05

いろいろな意味で「珍しい」クルマ

戦後間もない1946年、新生フランス・フォードが始動し、1948年までアルザスの改良を続けた。そのころ米国では、エドセル・フォード氏とボブ・グレゴリー氏がモデルT(T型)を現代風にアレンジしたセダンを開発したものの、新社長のヘンリー・フォード2世が本国では商業的にリスクが高すぎると反対。そこでドルフュス氏の要請もあり、フランスに譲渡することになった。

こうして生まれたヴェデット(Vedette)だが、ポワシー工場の戦災とサプライチェーンの混乱により製造品質が低かったため、出だしでつまづいてしまう。悲しいことにドルフュス氏は引退することになった。

フランス・フォードが生産していたヴェデット
フランス・フォードが生産していたヴェデット

3年後、フランスが戦争の荒廃から立ち直り始めた頃、彼の後任であるルノー出身のフランソワ・ルヒデュー氏が、ある新型車の投入を決意する。イタリアの有名なデザイン会社ファリーナ(後のピニンファリーナ)が線を引き、ファセルがボディを製作したクーペ、コメット(Comete)である。

コメットは1951年のパリ・モーターショーで発表されると、会場を大いに沸かせた。翌年の夏に本誌が試乗したところ、その走りは驚異的なものであった。

以下、本誌のレビュー。

「V8は、その全域で際立ってスムーズで静かだ。ステアリングは非常に軽く、路面からの反動はまったくなく、わずかにアンダーステアである。渋滞の中では、ハンドルを握っているのがむしろ忙しく感じられる」

「しかし、スプリングと相まって優れたコントロール性を発揮する。舗装路での乗り心地はよく、乗員は本当に酷い段差しか意識しないが、路面追従性と安定性が損なわれるほど柔らかいわけではない」

「高速でコーナーリングしても、ホイールホップやグリップの低下を感じることはない。ローリングはほとんど目立たない。ブレーキもクルマの性能に見合ったものだ。ドライビングポジションは、快適な座り心地と良好な操作性を兼ね備えている」

「コメットは、非常にモダンで優美な外観と、快活な性能を持ち、あらゆる面で装備が充実している、いろいろな意味で珍しいクルマである」

それが本誌の結論であった。

しかし、極めて好印象だったにもかかわらず、フランス・フォードの赤字は膨らみ続け、1954年にライバルであるフランスのシムカに売却されてしまった。買収と合併を経て、その名残は現在ステランティスの一部となり、ポワシーはDS、オペルプジョー向けのクルマを生産している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    クリス・カルマー

    Kris Culmer

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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