「多少の不便」を超越する喜び トヨタ・スープラ 3.0(RZ) 感謝の気持が湧く 長期テスト(最終)
公開 : 2024.02.10 09:45
FRにMTという希少な組み合わせのスープラ 再調整されたシャシーの印象は? 長期テストでその魅力を再び掘り下げる
積算2万6020km トヨタへ感謝の気持が湧いてくる
マニュアルのトヨタ・スープラで発進すると、新車の殆どがオートマティックへ置き換わった理由を再確認できる。AUTOCAR編集部のガレージを出発して数kmは、渋滞する市街地を走り続けるからだ。
ATに慣れてしまうと、そんな環境では、ギアを自分で選ぶことが面倒に感じてしまう。以前まで身体に染み込んでいた、MTを操るという記憶が蘇るまで、毎回ギクシャクしがちだ。やっぱりATは勝手が良い。
しかし、そんな思いは長く続かない。左手と左足の動きが自然になり、ロンドンの混雑した市街地から抜け出せば、MTを求める人が今でも少なくないことを理解できる。郊外の道を数100mも走れば、トヨタへ感謝の気持が湧いてくる。
e-CVTが組まれるハイブリッド開発へ注力する日本の自動車メーカーは、MTを介したカリスマチックな高性能モデルを、このご時世に提供してくれた。走行する機能としては無意味だとしても、バッテリーEV用のギミックMTすら試作が進められている。
GRスープラのために開発された、6速MTは素晴らしい。5世代目の量産プロジェクトが始まったときから、BMWと共有するプラットフォームを超えた進化を施すことが、重要視されてきたらしい。
340psを発揮する、3.0L直列6気筒ターボエンジンは、確かにBMW譲りではある。しかし6速MTは、ZF社と手を組んでトヨタ独自に仕上げたユニット。努力した成果が、しっかり報われている。
基本に立ち返ったアナログな2シーターGT
シフトレバーの動きは心地良く、クラッチペダルは重すぎない。ゲートへするりと入り、アナログな感覚がなんとも気持ちいい。直列6気筒エンジンのパワーとサウンドを、より直接的に、自由に引き出せる。AT以上の喜びと充足感をもたらす。
6速MTが、スープラ本来の特徴を大きく変えることはない。だが、手が加えられたパワーステアリングやアダプティブダンパー、アンチロールバー・ブッシュなどと相乗し、従来以上に本物のスポーツカーらしく感じられる。Z4ではなく、スープラしている。
登場当初から、BMWと基盤を共有することに批判的な声はあったが、少し意識しすぎだろう。iドライブと呼ばれるインフォテインメント・システムは、トヨタ独自のものより遥かに優れている。そしてスープラは、トヨタの狙い通りのクルマが追求されている。
つまり、アナログで基本に立ち返った、2シーターのグランドツアラーだ。これこそ、スープラの魅力の原点といえる。
長期テスト車両はほぼ素の状態で、オプションといえばプレミアム・ソリッド塗装のみ。特別なステレオは備わらない。しかし、直列6気筒エンジンの甘美なサウンドを楽しめることを考えれば、必ずしも必要なアイテムではないだろう。