人工知能と3Dプリンターで作るスーパーカー ジンガー21C 産業へ衝撃を与える新技術

公開 : 2024.02.08 19:05

人工知能と3Dプリンターで生み出された、1250psのジンガー21C 新しい開発・製造技術が、自動車産業を塗り替える可能性はあるのか 英国編集部が現地取材

曲線美のサブフレーム 2000kgのダウンフォース

必要最低限で済ませる。あまり良いイメージは含まない表現だと思う。

しかし、環境負荷を減らし、高騰する費用を抑えるためには必要な考え方だ。量産車は、開発費を抑えた方が良い。使用する材料は少ない方が良いし、製造工数は省いた方が効率的になる。むしろ、必要最低限が大切だといってもいいだろう。

ジンガー21C(北米仕様)
ジンガー21C(北米仕様)

アメリカ・カリフォルニア州南部、ロサンゼルスに近いハミルトンアベニューは、そんなマインドの中心地の1つ。自動車産業に衝撃を与える、震源地になりつつある。

そこへ拠点を置くダイバージェント社は、パワフルでエレガントなスーパーカー、21Cを開発したジンガー社の親会社。ハイブリッドのV8エンジンが1250psを繰り出すモンスターに、まったく新しいアプローチが採用されている。

AUTOCARでも以前にご紹介したが、この21Cは、3Dプリンターで生産されることが大きな注目を集めた。だが、それだけではない。ここまで最先端の技術が投じられた公道用モデルは、恐らく他に存在しないはず。

見所の1つが、曲線美のサブフレーム。V8エンジンを、動物の骨のように取り囲んでいる。溶接の痕跡はなく、可能な限り軽量でありつつ、必要な構造を果たしている。

空気力学が追求された、エアロキットをまとう滑らかなボディは、305km/hで2000kgのダウンフォースを生むらしい。その能力は、サーキットで証明済みだ。

コクピットはスリムで、ドライバーは中央に座る。その後方に、1人がけのリアシートが備わる。ル・マン・マシンと見間違えても不思議ではない。

自動車の製造プロセス全体が不完全

同社の最高執行責任者(COO)、ルーカス・ツィンガー氏は、「このクルマ自体がビジネスモデルです。ジンガーは最も成功した、アメリカの高性能自動車メーカーになることを目指しています」。と野望を話す。

21Cは、親会社のダイバージェント社が叶えた、革新的な製造技術のショーケース。超高速で走る実験室として機能している。

左からダイバージェント社のケビン・ツィンガー氏と、ルーカス・ツィンガー氏、筆者のフェリックス・ペイジ
左からダイバージェント社のケビン・ツィンガー氏と、ルーカス・ツィンガー氏、筆者のフェリックス・ペイジ

「弊社の使命は、野心的で広範囲なものです。自動車のボディだけでなく、航空宇宙や防衛技術といった設計や製造に対するソリューションです。既に優れたデジタルツールは存在しますが、設計プロセスを推進させる自動化技術へ注目しました」

自動車の製造プロセス全体が、様々な側面で不完全だとも述べる。ホワイトボディを製造する工程は、膨大なエネルギーと時間を必要とし、大量のCO2も排出すると指摘する。会社としてのリソースを、不必要に浪費しているとも。

「最大手のメーカーでも、10年や20年に渡って苦戦した過去を持ちます。設備投資が非常に大きいためです。その多くが、ホワイトボディなどの生産が要因といえます」

「プレスの金型や、鋳造・溶接の設備、組立ラインなどの準備に、まとまった予算を先んじて投じる必要があるためです。年間に何台売れるのかへ、強い期待が掛けられます」

一般的に新モデルの収益は、開発や設備に投じたコストを、どれだけ短期間に回収できるかで左右される。モデルチェンジが、8年前後で行われることにも結びついている。フェイスリフトを挟んで。

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事