ミニ・クーパーS 5ドア&クーパー 5ドア
公開 : 2014.11.26 17:28 更新 : 2017.05.29 19:14
3ドアに続き5ドア版が導入された新型ミニ。設定されるガソリンエンジン2機種のうち、2.0ℓ直4ターボを搭載する上級のクーパーSで、3ドア仕様との違いを確かめた。
この5ドア版の現車を見たとき、鈍い頭がようやく目覚めて初めて納得がいった。今春に上陸してきた3代目F56系ミニの試乗会場で不思議に思った。なぜフロント隔壁が高くなり、それに合わせてボンネットまで水平にしてしまったのだろうかと。オリジナル・ミニを21世紀に蘇らせようという企画は無茶ではあった。人間が占有する空間の基準は半世紀前よりずっと大きくなり、加えて衝突安全基準も厳しいから、サイズは確実にふた周り以上膨らむ。オリジナルの可愛らしさは絶対的な車体寸法の小ささに多くを拠っていたから、サイズを現代Bセグメント級に膨らせて、あの造形要素をそのまま拡大コピーして当て嵌めたら、可愛いどころか不気味になることは容易に予想できる。その失敗を未然に防いだのは、全体を強烈な前下がりウエッジで統一して漫画的にまでデフォルメを効かせてみせたフランク・ステフェンソンの機智であった。
だが、そのウエッジは2代目を経て3代目でほぼ消滅した。おかげでミニのエクステリアは今や動的イメージが消えて、もっこりした塊の重厚なそれにとって代わられた。これでは車高の高いクロスオーバーと印象が近くなってしまうではないか。だが、その水平基調は5ドアのためだったのだ。ウエストラインを強いウエッジに描いて5ドアを創ったら、リヤウィンドウは上下に狭くなって窓の機能を果たさなくなる。だから水平にする必要があったのだ。5ドアの開発コードはF55で、3ドアはF56。これは5ドア開発が先行したことを暗示する。5ドアありきで3ドアだったのだ。
走りのほうでも、なるほどと思ったことがある。3代目でミニの操縦性は色合いがはっきり変わった。それまでミニの後ろアシは頑固に踏ん張る一本やりだった。横力ゲインを尖らせた前アシの仕立てによってハナの動きは峻烈だから、素養レベルが高いとは言えぬミニのシャシー能力に在り得べきスタビリティを植え込む上でそれは必要な措置だった。
ところが3代目ではリヤが簡単に横に動く素振りを見せるようになった。操舵初期に後輪イン側の接地感があっさり抜けてしまって、リヤが軽く外に出て行こうとするのだ。ロール軸を極端に前下がりに採る。その上でフロントの初期ストロークを抑えずにスカッと沈むようにダンパーとばねとバンプストッパーを設定する。こうすると操舵してロールが始まると、いきなりフロント外側が沈んでリヤ内側が浮く姿勢になる。このとき後ろのダンパー伸び側は強めに締めているから、リヤ内輪は簡単に接地荷重を失おうとする。グリップが外輪だけに偏重するから踏ん張りが足らずにリヤが外に向かう。その先で定常旋回に入るころにはリヤは落ち着きを取り戻して、旋回特性は結局、基本要素が規定するアンダー方向に戻っていくのだが、操舵初期にリヤに不安を抱くことになるこのセッティングは箱根ターンパイクの下りのような高負荷ハイスピードの状況で威勢よく走るような真似を思いとどまらせるに十分であった。