クルマ好きがバイクに「惚れる」理由 何物にも代えがたいライディングの魅力とは
公開 : 2024.02.10 18:05
運転の「本質」を教えてくれるのがバイク
筆者はすぐに挫けてしまうし、濡れたバイクウェアを職場で整理しなければならないのは苦痛だ。夏の一番暑い日のジャケットも耐え難いものだが。それに、バイクが交通弱者であることは認めるべきだと思う。編集長と筆者はそれぞれバイク事故で友人を亡くしているし、怪我をした知り合いだって少なくない。だから、まだライダーでない人には、手放しでお勧めできるものではない。
でも、それはそれで残念なことだ。なぜなら、時間を節約するという考えは忘れ、代わりにライディングを人生最高の過ごし方の1つと考えるべきだからだ。筆者にとってライディングは、運転の本質的な楽しみを倍増させるものである。
筆者は人と移動装置とのやりとりが好きだ。馬や自転車に乗りたいと思うのも、蒸気機関車を運転したいと思うのも、飛行機やヘリコプターを操縦したいと思うのも、クルマを運転したいと思うのも、すべて同じ感覚だと思う。技術を楽しく応用して、ここではないどこかへ行く……最終的には、わたし達全員が同じような感覚を抱くのだと思う。
バイクはクルマ以上にその感覚を与えてくれる。おそらくゴーカートを除いて、どんなクルマでもそうだろう。筆者のホンダ・アフリカツインのような大型バイクは220kgあるが、これでも小型乗用車の半分以下だ。余計なものがついていないのも魅力の1つである。
また、バイクは必要以上に大きくならない。軽量スポーツカーで知られるアリエルの創立者サイモン・ソーンダース氏は、軽量なバイクやクルマを設計してきたが、バイクのバッテリーボックスに「2mm」の余裕を見つけて「大喜び」したと言う。純粋にエンジニアリングが好きな人なら、きっとバイクも気に入るだろう。
人間と機械が一体化する感覚
そして、バイクに乗ったことがなくても、自転車に乗ったことがある人なら、乗り物と「対話」する感覚がわかるはずだ。クルマでは、手足を使ってレバーやステアリングホイールを動かし、さまざまな部品を回して速度や方向を調整するが、身体そのものは事実上静止している。
バイクにも動力はあるが、身体の動き、特に傾きは、進む方向に驚くほど直接的な影響を与える。
バイクが人間の延長のように感じられ、人間と機械が一体となり、心を広げてくれるというのは、ちょっと陳腐な表現かもしれない。ひどく気取った言い方でもある。しかし、そこには心を動かす何かがある。単なる精神論ではなく、科学に基づいた理論が。
日本のある大学の研究によると、40代のライダーが2か月間の通勤で認知機能が高まったという。学術誌『Brain Research』に掲載された2021年の研究では、バイクに乗ることでストレスが25%減少したとされている。
研究者の1人は「実験室での実験では、バイク乗りが公道で感じるような感覚を再現することはできない」と言う。
つまり、科学のお墨付きというわけだ。バイクは寒いし、暑いし、濡れるし、時間を浪費するし、お金もかかるし、無防備だ。でも、はるかに、はるかに幸せになれる。筆者は自分の足が許す限り、バイクに乗るつもりだ。
(AUTOCAR英国編集部マット・プライヤー)
自然を「肌」で感じる素晴らしさ
バイクの旅で何物にも代えがたいのは、どんなクルマよりも直接的に自然と触れ合えるということだ。谷底では気温の低下に気づく。サイレージ(飼料)や収穫された干し草の匂いは特に鋭い。路面の変化にも気を配り(安全のため)、樹木の下の湿った場所には特に注意する。
エンジンの音を越えて、鳥のさえずりを聞くこともある。風向きにも気を配るし(騒音や姿勢に影響する)、太陽と風を背に長距離を走ったことがある人なら、それがどれほど崇高なことかわかるだろう。
雨に濡れるって? 確かにリスクはあるが、最近のギアはかつてないほど優秀だ。しかし、筆者もよくやらかすように、身を守るものを忘れてしまった場合は、ずぶ濡れのバイカーがよく口にする、「まあ、濡れるのは一度だけだし……」という皮肉を楽しむことができる。
(AUTOCAR英国編集部スティーブ・クロプリー)