「飛躍的」な進化を証明する ランドローバー・ディフェンダー アウディQ8 e-トロン キアEV9 3台比較(2)

公開 : 2024.02.17 09:46

ドライビング体験で上回る英独の2台

ディフェンダー 110 P400eは優れたSUVながら、プラグイン・ハイブリッドがはらむ制約は小さくない。動力性能は充分以上で、22インチ・ホイールを選ばなければ、オンロードでのマナーも優れている。

だがバッテリーEVへのつなぎ役としては、及ばない部分が残されている。駆動用モーターの最高出力は143psで、2538kgのボディを60km/hで走らせるだけで精一杯。駆動用バッテリーの充電も、30kmほどで切れてしまう。

ランドローバー・ディフェンダー 110 P400e(英国仕様)
ランドローバー・ディフェンダー 110 P400e(英国仕様)

高価格帯のモデルらしく走るには、内燃エンジンと駆動用モーターが同時に機能する必要がある。駆動用バッテリーを使い果たすと、動力性能は明確に落ちてしまう。

だとしても、ディフェンダー 110のドライビング体験はEV9を上回る。Q8 e-トロンは、もっと良い。スチールコイル・サスペンションが支えるEV9の乗り心地は、上質さが乏しいのだ。

エアサスペンションを備える英独の2台は、それぞれ特性が異なるものの、路面の不整を効果的に均す。車内と隔離するように、ディフェンダー 110は穏やかに揺れを沈め、Q8 e-トロンはノイズや振動を一層なだめ込む。

EV9は、路面の凹凸で明確にボディが震える。ロードノイズは小さいが、乗り心地は落ち着きが乏しい。大きな不整を通過すると、リアアクスルが乱れる様子も伝わってくる。

その一方、EV9はエネルギー効率で巻き返す。冬場における実環境の電費は、3.7km/kWh対3.2km/kWhで、Q8 e-トロンより優勢。航続距離も386km対338kmと、小さくない差が出た。最大牽引重量では、ディフェンダー 110の2.5tに対し、3.0tで上回る。

ブランドの飛躍的な進化を証明する

かくして、記憶に残る見た目や、7シーターという実用性、インフォテインメント・システムの能力などを踏まえると、EV9が総合的に2台をリードするといっていい。

ディフェンダーのバッテリーEV版があったら、あるいは、準備できなかったBMW iXなどと比べていたら。EV9の内装や動的に劣る部分が、より明確に印象付けられていたかもしれない。

ブラックのランドローバー・ディフェンダー 110 P400eと、ブルーのキアEV9 GTラインS、レッドのアウディQ8 eトロン55クワトロ・フォアシュプルング
ブラックのランドローバー・ディフェンダー 110 P400eと、ブルーのキアEV9 GTラインS、レッドのアウディQ8 eトロン55クワトロ・フォアシュプルング

それでも今回は、大型SUVとしての技術的な完成度で、EV9が勝ることは否定できない。少し、腑に落ちない結果かもしれないが。

完全な勝利を収めたわけではない。クラスをリードする、7シーターの電動SUVをキアがリリースしたとまではいえない。しかし、欧州ブランドに伍する強みを複数備えた、優れたモデルが誕生したことは間違いないだろう。

ビッグネームへ挑むことを恐れないキアが、少なくとも幾つかの分野で、充分な競争力を示したことは明らかだ。EV9を通じて、ブランドの飛躍的な進化を証明することになったといえる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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