6年「放置」のフォルクスワーゲン・ビートル 60psの1302 Sを復活 記憶と違う絶好調

公開 : 2024.02.21 19:05

学生時代から12年間所有し、6年間放置したフォルクスワーゲン・ビートル プロによる整備で過去の記憶と相容れない好調に 最終的な筆者の決断とは

ドイツ製ビートルでは最強の1302 S

記憶の限り、2013年の英国は異常な暑さだった。酷暑が続く9月の駐車場には、真新しいオペルコルサルノー・クリオが、狭そうに整列していた。

アルミホイールとスポーツマフラーで飾ったホットハッチを並べて、痩せた若者のグループが、クルマ談義する様子は当たり前だった。ステレオデッキにAUX端子を追加する方法を考えたり、バス通学の友人を茶化したり。

フォルクスワーゲン・スーパービートル 1302S(1972年式/英国仕様)
フォルクスワーゲン・スーパービートル 1302S(1972年式/英国仕様)

そんな彼らを横目に、穴の空いたマフラーから偏屈な排気音を放つ、フォルクスワーゲン・ビートルに乗っていた筆者。家までクルマで送って欲しいと頼む友人3名を車内に押し込み、エンジンオイルが一定の温度に上昇するまで暖機する。

「歩いて帰った方が良かったかな」。「エアコンないね」。そんな本音が、彼らの口からこぼれた。

1972年式フォルクスワーゲン・スーパービートル、1302 Sは、大きく丸く膨らんだフロントノーズと、マクファーソンストラットを備えていた。クルマの説明をする時は、必ずといっていいほど、サスペンションはポルシェ924と共通なことを強調した。

ボディはソリッドで、シートや内装、ステレオデッキはオリジナルのまま。フェンダーは内側にもサビがないという、良好な状態も自慢だった。

エンジンは、歴代のドイツ製ビートルとしては最強。新車時なら60psを発揮し、0-80km/h加速は12.3秒で、128km/h以上での巡航も問題なかったようだ。当時のパンフレットによれば、だが。

祖父母のガレージで冬眠した6年間

油温の上昇を見計らって、大学の駐車場を出発。筆者がこのクルマに対して抱く気持ちを、友人はまったく理解していなかった。指定速度まで緩やかに加速し、信号待ちではラジオのボリュームを下げて、アイドリングの様子へ気を配った。

15分ほど進むと、長い登り坂。1年で最も暑いという日に、4人を乗せたビートルが頑張る。筆者の少し緊張した表情を見て、友人は大笑いする。

フォルクスワーゲン・スーパービートル 1302S(1972年式/英国仕様)
フォルクスワーゲン・スーパービートル 1302S(1972年式/英国仕様)

不安は的中し、頂上を越えた辺りで燃料ポンプが停止。ニュートラルに入れ、下り坂を利用して待避所へ寄せる。4人で汗をかきながら、レスキューが来るのを待つ。あれほど、心がヒリヒリした沈黙時間はそうない。

ビートルで追い越したバスが、次々に横を通過していく。困り果てた4人に気付いた同級生が、スマートフォンで撮影していく。筆者を残し、友人は最寄り駅まで歩いていった。

2024年に12年目を迎えた所有体験で、最も忘れられない出来事だ。大学から1番遠くに場所に住んでいた筆者は、足代わりに使われることが多かった。弱点と癖のあるクルマは、多くの友人から頼られ、ほぼ、楽しい時間を生み出してきた。

その後数年間、基本的なメンテナンスだけで、走行距離を2万5000kmほど増やした。しかし最終的に、信頼できるクルマが必要になり、祖父母のガレージで冬眠させることを決めた。

実際は、6年間放置した。電気系統と燃料系統の不調で、不動車になった。AUTOCARで仕事を始めると、最新モデルへ簡単に乗れる機会へ甘え、復活の機会を失っていた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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